16400 ISIS指導者・バグダディの生い立ち   古澤襄

■崇高な原理よりも戦場での勝利に重点
<イスラム教スンニ派の武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を率いるアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者は、1997年にはバグダッドの大学に通う修士課程の学生だった。非常に貧しかったため、親切な教授から毎月現金の施しを受けていたと、元クラスメートはふり返る。
それが今、潤沢な資金を持ち、完全武装し、ISISのバックアップを得たバグダディ容疑者は、つつましい青春時代を過ごした都市バグダッドを攻撃できる射程距離にいる。
現在の名前に改名したのは2010年だ。このイスラム武装組織リーダーの台頭は、無一文から身を起こした人物の物語であり、彼が現在率いているISISという武装集団の台頭をも表している。
バグダディ容疑者の率いるISISは、イデオロギーより実際的な利益を強調し、崇高な原理よりも戦場での勝利に重点を置く。そうすることによって最も強力なイスラム武装組織の1つになった、と専門家は言う。
西側にとって、ISISの強さとそのあり方は、新しい種類の敵が生まれたことを意味する。残虐さで知られ、多くの点で国家の正規軍のように行動し、領土拡張を求める武装集団だ。

ワシントン中近東政策研究所のイスラム集団専門家アーロン・ゼリン氏は、ISISが「イスラム国家の理想を現実化しており、そこにジハード(聖戦)的な面で訴える力がある」と述べた。
ゼリン氏は、シリアや世界各地におけるISISのライバル集団に言及し、「そうした理想を説く連中はいるし、アルカイダやヌスラ戦線は理想を実現すると強調しているが、ISISはそれを黙々と実行しつつある」と述べた。
ISISは、アルカイダと同じイデオロギーやジハード的な文言を共有しているが、方法論は異なる。アルカイダは1980年代にソ連のアフガニスタン占領に対する抵抗運動の中でスタートし、世界的なイデオロギーを提唱するテロ組織として行動している。これに対しISISは多くの点で、国境を持つ主権国家の軍隊のように行動している。
ISIS指導者たちは、正式な統治システムを導入し、指導部評議会は定期的に会合している。ISISはオンライン上で少なくとも年2回のリポートを発行し、資金繰りや戦場の勝利に関する詳細な叙述を提供している。
シリアでは、ISISはラッカという町で電気工事や新しい市場などインフラに投資した、と住民たちは述べている。
バグダッドに次ぐイラク第2の都市モスルでは、ISISは不便なバリケードを撤去し、発電機用の燃料を配給し、交通整理を行った、と住民たちは言う。

アルカイダは金持ちのメンバーや裕福な寄付者から資金を得ている。これに対し、ISISは占領地から石油をかすめ取り、現金を盗むなどして、自給自足の度合いを強めている。イラク当局によると、ISISはモスルを先週制圧した際、政府系銀行から5億ドル(約510億円)近くを盗んだ可能性があるという。
他のジハード的な集団と異なり、ISISは支配下に置いた人々に愛国主義的な精神を植え付けようとしてきた。例えばラッカの住民はバグダディ容疑者への忠誠を誓うよう強制された。モスルでは、ISISの記章の入った旗以外はすべて非合法とした。専門家たちは、これは信心と忠誠を吹き込む典型的なイスラム原理主義的戦略を超えた動きだと指摘している。
ワシントンに本拠を置くシンクタンク、戦争研究所のイスラム専門家ジェシカ・ルイス氏は「ISISのパワーはハードパワーだ。彼らが強いのは、軍事力が卓越しているためだ」との見方を示した。「これが、彼らのイスラム教首長国追求を下支え」しており、それはアルカイダが追求していないものだという。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)>
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました