16482 米中関係、正反対のビジョン映す2つの軍事演習     古澤襄

■スービック湾合同軍事演習とハワイ環太平洋合同演習
【北京】太平洋の両側で米海軍が主導して始まった2つの海上軍事演習は、米中関係の行方について全く異なるビジョンを示している。1つは楽観的、もう1つは不吉なものだ。
東では、ハワイ沖で行われている世界最大規模の多国間海上軍事演習「環太平洋合同演習(リムパック)」(8月1日まで)に、中国海軍が初めて参加している。
これは好ましい兆候だ。東シナ海と南シナ海での中国の領有権主張をめぐり米中間の緊張が高まっている中ではなおさらだ。中国は病院船「和平方舟(Peace Ark)」を含む4隻の艦船を派遣し、米国など太平洋沿岸の周辺諸国に対して、より協調的な姿勢を示している。
しかし、そこから5000マイル(約8000キロメートル)西のフィリピン沖で行われている米国とフィリピンの合同軍事演習「協力海上即応訓練(CARAT)」からは全く異なるメッセージが送られてくる。
米国・フィリピン海軍は、かつて米国外で最大規模の米海軍基地があったスービック湾で実弾訓練を行っている。同湾の水深の深い港と空港では、フィリピンが中国の領海侵犯に抗議するため再び軍事行動を起こす準備を整えている。
スービック湾は、中国に脅されていると感じている同盟国を安心させることを目的としたオバマ米大統領のアジア重視政策でも重要な役割を果たしている。中国が2012年に事実上占拠した豊かな漁場であるスカボロー礁に近いからだ。
米国とフィリピンの司令官はCARATと、中国との領土紛争は無関係としている。だがその重要性は明白だ。つまり、リムパックが中国の平和的台頭に対する米国の希望を表すとするならば、CARATはリスクを未然に防ぐもの――事態が極めて悪い方向に向かった場合の軍事行動の代替案となる。

では、米中関係はどちらに向かうだろうか。
米中間の経済的な相互依存関係を踏まえると、平和的なシナリオが強く求められる。
だが今のところ西側の軍事アナリストの間では、米中が相手国から予測される脅威に対して自国の安全保障強化のために取っている防衛行動そのものが、アジアの平和に最も深刻な脅威をもたらしているというコンセンサスが形成されつつある。
ある国が軍備増強すれば別の国も同様の措置を取り、やがて泥沼に陥っていく。国際関係の専門家らはこれを「安全保障のジレンマ」と呼んでいる。まさに米中関係はこうした厳しい状況にある。
中国は、米国がフィリピンなどアジアの同盟国との軍事協力を強化していることについて、中国がアジアの大国として台頭するのを阻止し、中国に合法的な領有権を主張させないようにする周到に練られた作戦の一部と見なしている。このため、中国は米軍を西太平洋から締め出そうと躍起になっている。 
中国はこの目標を達成するために最新兵器をそろえている。アジアの米軍基地や艦船を狙える長距離精密誘導ミサイルや超静音潜水艦、サイバー戦争および宇宙戦争用の軍備などだ。
米国の超大国としての名声は、同国が世界のどこにでも兵器と兵士をすぐに派遣できることが根拠となっている。そうした米国にとって、締め出されるという感覚は耐え難いものだ。米国は西太平洋で力を誇示できなければ、フィリピンなどの同盟国を守るという約束は到底果たせない。
そこで、米国は中国のもくろみを阻止する効果がありそうな作戦を推し進めている。
そのうちの1つである「エア・シー・バトル(Air-Sea Battle=ASB)」構想は、中国本土のミサイル発射装置や指揮統制拠点を破壊するため、戦闘が始まったらすぐに壊滅的な攻撃をかける内容だ。ただ米国防総省は、ASBは特定の国を対象にしたものではないとしている。
両国の軍事戦略家にとって、このような流れから核戦争を思い浮かべるのは簡単だ。
この致死的となり得る戦争については一切語られていない。米国は中国を軍事的脅威と呼ぶのを避けようと四苦八苦している。ゼーリック元米通商代表の言葉を借りれば、中国には「責任あるステークホルダー」として国際問題でより幅広い役割を果たしてほしいと考えている。
中国は少なくとも表向きは、西太平洋に米国がプレゼンスを維持することを歓迎している。実際に、昨年カリフォルニア州サニーランズで行われた米中首脳会談で、中国の習近平国家主席は、台頭しつつある大国が既存の大国に挑むとほぼ例外なく行き着く破滅的な戦争を回避するために「新しいタイプの大国関係」の構築を望んでいると強調した。
先週、マーク・モンゴメリー米海軍少将は空母ジョージ・ワシントンに乗って南シナ海を航行中に、中国との軍事関係はこの1年で「やや」改善したと述べた。
こうした慎重ながらも楽観的な見方は、数日前にダニエル・ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋地域担当)の議会証言でも示された。ラッセル氏は、米国と中国は冷戦思考にとらわれ、衝突に向かう運命にあるという見解を否定。両国首脳は「新興の大国と既存の大国の間に意図せぬ衝突が起きるリスクを十分認識している」と語った。
その通りかもしれない。だが、ハワイ沖で平和への希望が膨らんでいる一方で、スービック湾周辺で響き渡る銃声は憂慮すべき現実を突きつけている。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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