■親米の独首相 姿勢転換か
【ベルリン】メルケル独首相は、米国が望みうる最も親米的な欧州指導者である。だが、米国のスパイ活動をめぐって拡大する一方の騒ぎのせいで、同首相の親米的な姿勢は国内で重荷になり始めている。
ドイツ連邦検察庁が米国のためにスパイ活動をしていた容疑で同国政府職員を捜査していることが9日明らかになった。米国のスパイ活動が発覚したのは、過去1週間に2度目のことで、米当局と緊密に連携を取っているとしていたドイツ政府は守勢に立たされた。ドイツのメディアは直ぐに米国に批判を浴びせ、独外務省高官は再び駐独米国大使を呼んでスパイ容疑事件について説明を求めた。米独関係は、昨年メルケル首相の携帯電話の盗聴など米国による監視活動が発覚して以降で最悪になる恐れが出てきた。
ドイツの連邦議員や政府当局者らは内々では、今回のスパイ活動発覚に対する怒りをあらわにするとともに、米国との協調路線をドイツ国民に納得させるのは一段と難しくなったと漏らす。ドイツ政府は、メディアに広がる反米感情への対応に苦慮している。
連邦首相府の報道官であるシュテフェン・ザイバート氏は9日の記者会見で、「安全保障と市民の自由への介入のバランスをどう取るかという問題で独米間には根深い対立がある」とし、「この意見の相違は、両国の信頼に影響を及ぼしている」と懸念を示した。
メルケル首相の親米姿勢への批判はこれまで、だいたい野党から出ていたが、ここに来て与党内にも広がりを見せている。メルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立政権を組んでいる中道左派の社会民主党(SPD)のラルフ・シュテグナー副委員長は、スパイ事件はメルケル氏が支持している環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉に悪影響を及ぼすと警告する。
米独関係は、昨年エドワード・スノーデン元米国家安全保障局(NSA)契約職員がNSAによるドイツの通信傍受を暴露したことから緊張が生まれ、メルケル首相の電話盗聴が明らかになると一段と悪化した。
しかしメルケル首相は、米国に対する姿勢を硬化させるべきだとの政治的な圧力に抵抗してきた。
同首相は5月に訪米した際、ドイツ国内ではウクライナ問題に関連した対ロ制裁への反対論が強かったにもかかわらず、ロシアがウクライナを不安定化させるならば制裁強化も辞さないとする米国の対応を支持した。また最近では、TTIPについて国内では消費者保護を弱めると懸念されているものの支持を公にした。
だが、今回新たなスパイ容疑が発覚したことから、同首相の対米姿勢が変化する可能性も出てきた。
メルケル首相を20年間以上にわたって見てきたドイツ人ジャーナリストのフーゴ・ミュラーフォグ氏は、同首相は平均的なドイツ人よりはるかに親米であると述べる。ただ、ドイツ国民の間で反米感情がさらに強まれば、同首相は個人的な信条と鋭い政治感覚のバランスをとる必要が出てくるだろうと予想する。
ミュラーフォグ氏は「米国に批判的な人が増えていけば、メルケル氏も国民の怒りを押しとどめられなくなろう」と指摘、「メルケル首相は政治的なムードを敏感に察知できる能力がある」と付け加えた。野党は同首相に対し、TTIP交渉を延期するとともに、スノーデン氏をドイツで保護すべきだとの要求を強めている。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
16549 米国による新たなスパイ活動発覚 古澤襄
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