マレーシア航空17便の撃墜ならびに事故処理の混乱をめぐってオバマ米大統領はロシアに非難の矛先を向けているが、プーチン大統領個人に対しては厳しい批判を避けたがっていると思えてならない。
例えば、米政府が21日に発表した声明で、オバマ大統領はウクライナの親ロシア派を単刀直入に批判した。米国は親ロシア派が航空機を撃墜した可能性が高いと主張している。
オバマ大統領はロシアによる親ロシア派への支援の仕方については厳しい口調で非難。「ロシアが彼らを駆り立てている。ロシアが彼らを訓練している。ロシアが地対空ミサイルを含む軍事機器や武器を彼らに提供したことは分かっている」と表明した。
一方、直接プーチン大統領に言及する際にはオバマ大統領は慎重に言葉を選び、「プーチン大統領は完全で公正な調査を支援すると話している。私はこの言葉を評価するが、行動を伴う必要がある」と述べた。一方、サマンサ・パワー米国連大使は同日の安全保障理事会での発言で、プーチン大統領を厳しい口調で非難した。
プーチン大統領個人とロシア全般に対するトーンが違うのをどう説明できるだろうか。可能性はいくつかある。
一つ目は米当局者の間で内密に議論されていることだが、プーチン大統領がマレーシア航空機撃墜と事件後の親ロシア派の行動をひどく恥じ、親ロシア派への支援とウクライナ政府への圧力といったより広範な計画から手を引く時だと考えるのを、米国側は期待している。
オバマ大統領はプーチン大統領と頻繁に電話会談するなど、緊張をはらみながらも機能する個人的関係を保っているようだ。オバマ大統領はプーチン大統領を説得してウクライナをめぐる計画から手を引くよう促すことができると期待しているかもしれない。
あるいは、プーチン大統領が方向転換することで面目を失ったと感じるような個人攻撃は避けたいと考えていてもおかしくはない。 さらに、オバマ政権が世界の他のさまざまな問題への対処においてプーチン大統領の協力が必要なことも純然たる事実だ。
シリア問題がまさにそうだ。ロシアの働きかけでシリアのアサド政権は化学兵器の破棄に合意したが、シリア内戦を解決に導くより多岐にわたる合意にもロシアの後ろ盾が必要になるだろう。イランとの核開発協議でもロシアの役割は重要で、米国とロシアを含む6カ国はイランの核開発抑制に向けて交渉を行っている。イランとの交渉は最終合意の期限が延長されたが、米政府にとってこの交渉をまとめることは向こう4カ月間の最重要課題の一つだ。
ロシアがウクライナから手を引き、プーチン大統領との関係を現状のまま維持するといったいいとこ取りをオバマ大統領が期待していても不思議ではない。もちろん、こうした期待がいつまで続くかは不確かだ。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
16657 オバマ大統領がプーチン大統領を個人攻撃しない理由 古澤襄

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