北朝鮮による日本人拉致被害者らの再調査が始まって1カ月。日朝交渉の窓口となる官邸・外務省はこの間、関係省庁や団体への具体的な指示や要請をしていない。情報漏洩(ろうえい)や臆測が広がることを懸念しているためで、関係省庁合同の検証準備チームの結成を見送ることも3日、判明した。
北朝鮮は再調査のための特別調査委員会に(1)拉致被害者(2)行方不明者(3)日本人遺骨問題(4)残留日本人・日本人配偶者-の4分科会を設置。第1回の再調査結果は早ければ8月下旬にも示される見通しだ。
しかし、かつて北朝鮮は拉致被害者の横田めぐみさん=拉致当時(13)=のものとする「遺骨」を提示。日本側のDNA型鑑定で別人と判明するなど、数々のずさんな調査が浮き彫りになっている。
このため日本政府は再調査について、4つの分科会に対応した省庁横断の検証チームを設置し、十分な裏付けを行う方針だ。
ただ、「日本人配偶者」をめぐって、旗振り役のはずの外務省の動きは鈍い。日本赤十字社は平成9~12年に計3回、北朝鮮にいる計43人の一時帰国事業を展開するなど、日本人配偶者らの情報を入手してきた。今回、官邸・外務省から検証に向けた準備の要請はないといい、今後の対応は不透明なままだ。
「遺骨」「残留日本人」の情報を持つ厚生労働省も動いていない。厚労省社会・援護局は、軍人の死亡地や未帰還者に関する資料を終戦直後に旧引揚援護庁から引き継ぎ省内で保管。今回の再調査の裏付け作業に欠かせない資料となるが、精査は進んでいない。厚労省幹部は「(検証の)ノウハウは十分にある」というが、外務省の指示を待っている状態なのだ。
また、日本側の民間団体は7月中旬、終戦前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺族らを引率して訪朝する墓参事業について「手を引く」と突然、ホームページで公表した。団体は6月末から7月初旬、墓参事業で訪朝したが、7月31日からの訪朝予定をキャンセルした。理由は「国家間の合意ができたから」としているものの、「北朝鮮の圧力か」との観測も広がる。
政府関係者は、こうした現状を「政府の対応で最も優先順位が高いのは拉致被害者救出だ。日本人配偶者や遺骨問題に対する動きはおのずとゆっくりになる」と分析する。「日本人配偶者や遺骨問題はかなりの調査が必要で、時間がかかる」(官邸筋)ためだ。
外務省は日朝交渉を北京の日本大使館を経由して行ってきたが、情報伝達は拉致問題捜査の陣頭指揮をとる警察庁などに限ってきた。7月29日になって官邸の杉田和博官房副長官が厚労、外務両省と警察庁の幹部らを集めて“説明会”を初開催。ただ、「会合の時間も短く、実務の話はあまりなかった」(関係省庁幹部)という。
引き続き定期的に説明会を開くことを申し合わせたが、政府高官は、情報漏れを防ぐため「横断的な検証準備チームは作らない。それぞれがしっかりやる」と明言。再調査結果の公表までは、北朝鮮側の出方を慎重に見極める構えだ。
【用語解説】残留日本人と日本人配偶者=戦前に現在の北朝鮮に渡り行方不明になった人が残留日本人。1440人が確認されている。
このうち1405人は、家族の申し出により戸籍上は「死亡者」として扱われている。政府は残る35人を捜している。日本人配偶者は在日韓国・朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡った日本人女性。約1800人と推計されている。(産経)
杜父魚文庫
16763 首相官邸、外務省の隠密行動に関係省庁ヤキモキ 古澤襄

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