16863 綱渡り演じるヒラリー・クリントン氏    古澤襄

■オバマ大統領と微妙な距離感
ヒラリー・クリントン氏が政治的な綱渡りを演じている。2016年の大統領選を控えて自らの外交政策を肉付けする過程で、支持率が過去最低に落ち込んだオバマ大統領と距離を置こうとしているのだ。
イラクなど中東情勢が混乱している中で、クリントン氏は国務長官として仕えたオバマ大統領を直接批判こそしていないが、オバマ政権内の中東政策をめぐる舞台裏の意見の相違を率直に口にようになっている。
この意見対立は、アトランティック誌との最近のインタビューで改めて明らかにされた。それは、オバマ大統領がイラク北部のイスラム過激派の攻勢から米政府職員を保護するため空爆に踏み切ると発表した、非常に微妙な時期とぶつかった。
インタビューは8日の空爆開始前に行われたが、10日に公表された。彼女はこの中で、オバマ政権がシリア内戦の初期、(当時国務長官だった同氏が支持していた)反体制派への支援強化に踏み切らなかったため、過激派の台頭をもたらしたと振り返り、その結果「大きな空白が生まれ、今ではイスラム聖戦主義者がそれを埋めてしまった」と指摘した。
クリントン氏はまた、オバマ政権内の一部が政策指針を表すときに使う「愚かなことをしない」というキャッチフレーズについて、「大国は指針を体系化する必要がある。『愚かなことをしない』は体系化された指針ではない」と批判した。
クリントン氏は、以前から外交政策ではオバマ氏よりもタカ派とみられてきた。具体的な意見の違い――特にシリア内戦の初期に穏健な反体制派をもっと支援すべきだったかどうかをめぐって――は、6月に発刊されたクリントン氏の著書「ハード・チョイシズ(困難な選択)」で明らかになった。彼女が自分と大統領との見解の違いを率直に語ろうとしていることは、クリントン氏にのしかかっている相矛盾する政治的な責務を浮き彫りにする。
リベラルな反戦団体であるカウンシル・フォー・リバブル・ワールドの上級研究員であるジョン・アイザックス氏は、「政治的には、彼女が自分らしさを示すのは当然のことである」としながらも、「ただ、反対していたからといって国務長官時代の政策から自らを切り離すことは至難の業である」と語る。
クリントン氏はアトランティック誌とのインタビューで、シリアに関する自分の意見が受け入れられていた場合、中東情勢が大きく異なっていたかどうかは分からないと抜かりなく言及。さらにオバマ氏を「思慮深く、ものすごく知性がある」と褒めちぎった。
ウィルソン・センターの研究員であるアーロン・デービッド・ミラー氏は、クリントン氏はこれまでのところ、過去の閣僚と将来の大統領候補という2つのとてつもなく重い要求のバランスをとってきたと評価する。ミラー氏は「オバマ政権に派手に敵対しているわけではなく、彼女は注意深く言葉を選んでいる。ありきたりのコメントと批判をうまく融合させている」と述べた。
政府当局者によれば、ホワイトハウスはこのインタビューについて事前に注意喚起を受けていた。クリントン氏の側近は、アトランティック誌とのインタビューについて、オバマ氏が試練に直面しているときに意見の相違を触れ回るための政治的に計算された動きではないか、との見方を一蹴する。この側近は「インタビューは、クリントン氏の自伝を宣伝するためのもので、16年の次期大統領選に関連した壮大な政治的戦略の一環ではない」と見る。
それでも、インタビューが波風を立たせ注目を集めたことは、クリントン氏が立ち向かう課題の大きさを示している。一方で、彼女の国務長官としての実績は最高司令官となる準備が出来ているとの主張を裏付ける重要なカードとなる。他方、オバマ氏の外交政策に対する支持率は過去最低水準にあり、有権者は彼女が新たな方向を示唆したことを好ましく受け止めるかもしれない。民主党のあるベテラン政治ストラテジストは「クリントン氏は、オバマ氏がもう4年間大統領を務めるようなものと思われれば、大統領選に勝利するのは難しくなるだろう」と分析する。
クリントン氏にとってもう一つの潜在的な政治リスクは、自分をオバマ氏よりもタカ派に見せることで、彼女は十分にリベラルではないのではと感じている民主党支持者の疑念を深める恐れがある点だ。だが、世論調査では、そうした疑念は薄らいでいる。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCテレビが6月に行った共同世論調査によると、民主党支持者の78%はクリントン氏を支持し、自らをリベラル派と位置付ける人たちの中でも支持率は77%に達した。
前出のアイザックス氏は「小さな三角測量(一般的な民主党支持者とリベラル派との中間に自らを置くようにすること)に本格的に亀裂が入らない限り、左派(リベラル派)に大きな問題を引き起こすことはないだろう」と予想する。
(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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