■中国を視野に 日印提携
【東京】来日中のインドのナレンドラ・モディ首相は1日、インドと日本がアジアの平和と繁栄を促進するため一段と密接な戦略的関係を構築する必要があると述べた。また、インドや日本と領有権争いをしている拡張勢力に対抗する必要性にも言及した。名指しこそ避けたものの、拡張勢力が中国を指していることは明らかだ。
モディ首相は経団連での演説で、「われわれの周辺いたるところに、18世紀の拡張主義の考え方を持った勢力がいる。つまり、他国を侵害し、他国の海域に侵入し、他国に侵攻して領土を占領する考え方だ」と指摘。「拡張勢力のわなにはまりたいか、あるいは世界を一段と高い水準に持って行く発展の道を歩みたいか、決断を下さなければならない」と述べた。
モディ首相は中国を名指しはしなかったものの、1日の発言は首相が日本と運命を共にする意志があることが如実に示された。米国の同盟国である日本は、軍備を増強して一段と強硬姿勢を強める中国に対し、アジア諸国と共同戦線を形成しようと努めている。モディ首相が自身のスタンスを堅持すれば、地政学的に広範な影響が及ぶ可能性がある。
インドと中国の関係は長らく相互不信を特徴としてきた。1962年には国境紛争が勃発し、これに勝利した中国がカシミール地方にあるアクサイチンと呼ばれる広大な領土を支配下に置いた。中国政府はいまだに3万8000平方キロメートルに及ぶこの土地を実効支配しているが、インドの地図上ではアクサイチンがジャム・カシミール州の一部として記載されている。また、中国はインド北東部アルナチャル・プラデシュ州にある9万平方キロメートルの領有権も主張している。
インド政府は中国軍がヒマラヤ周辺のインド支配地域に繰り返し侵入したことを批判し、昨年、両軍が3週間にわたるにらみ合いを続ける結果となった。この地域の領有権を主張する中国政府はインドの主張を否定している。中国は最近、インドとの国境画定作業を進めるよう求めたが、インドのアナリストらは、インド側の軍事力浪費につながるため、中国が国境紛争を悪化させたままにしておくのに満足していると分析している。
中国は国境周辺の紛争地域でインフラ開発を着々と進め、物資や部隊がスムースに行き来できる環境を整えている。また、中国は米国に対抗する目的で軍事費を拡大させ、ベトナムやフィリピン、日本など領有権問題を抱えるアジア諸国に身構えている。インド政府関係者は、同国の影響力の範囲内とみなすインド洋に中国が進出することにも懸念を募らせている。
インド政府はこれまで、中国を刺激したり中国の封じ込めを狙うと見られるような同盟関係を結んだりするのに消極的だった。アナリストらは、モディ首相の発言がより強固で積極的な外交政策を示していると指摘している。つまり、インドは中国と緊密な経済関係を持ち続ける一方、南アジアや東アジア諸国との地域連携を増強して中国の台頭を抑制しようとしている。中国の習近平国家主席は9月中旬にインドを訪問する予定だ。
モディ首相は「21世紀はインドと日本との関係がいかに緊密になるかにかかっている」と指摘。「世界の平和と発展、繁栄のためインドと日本は大きな責任を負っている」と述べた。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
17038 インド首相、日本との関係強化に期待 古澤襄

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