■カギ握る株・金利の反応
[東京 3日 ロイター]安倍晋三首相による内閣改造と自民党三役の一新人事は、マーケットにおけるある政策課題への注目度を上げた。それは10%への消費再増税の可否だ。特に財政再建論者として知られる谷垣禎一自民党幹事長の存在は、市場に様々な思惑を呼んでいる。政府・与党がどのような決断を下すのか、その帰すうは株価や長期金利の動向など今後の市場反応が握っていると言えそうだ。
<思惑呼ぶ谷垣幹事長の本音>
消費増税後のさえない経済指標が相次ぐなか、来年10月からの消費税10%への引き上げについて、安倍首相のブレーンである本田悦朗・内閣官房参与らから延期を求める主張が出たこともあり、マーケットにも先送り観測が広がっていた。
だが、谷垣氏の自民幹事長就任で風向きが変わるかもしれない。
谷垣氏は2012年に自民党が民主、公明両党と消費税10%への引き上げで合意したときの総裁だ。自身も財政再建論者として知られる。市場では「消費再増税決定に向けた布陣ではないか」(国内証券)との見方が強まっている。
ただ、今後控える地方選が、増税判断に微妙な影響を与える可能性もある。今年10月に福島県知事選、11月に沖縄県知事選、来春には統一地方選を控える。選挙に際して増税は不人気な政策だ。まして駆け込み需要の反動減からの消費のリバウンドが弱いというデータが相次ぐなかで、一段の増税は国民の支持を得にくいと、多くの政治家が身構えている。
福島県は原発問題、沖縄県は米軍基地問題と個別の「政策課題」を抱えるため、仮に与党が2連敗しても、直ちに来春の統一地方選に「赤信号」が点灯するわけではない。だが、党内で執行部の責任を追及する声が浮上し、それを機に消費増税の先送り論が噴出する可能性も十分にありそうだ。
一方で「増税路線の急先鋒たる谷垣氏が見送りに傾けば、党内の財政再建論者を説得しやすい。幹事長という選挙運営をまかされる立場に就いたことで、増税判断は微妙となってきた」(ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏)との見方も出ている。
谷垣氏は幹事長就任直後の3日午前の会見で、消費税率10%への引き上げについて、法律に沿って来年10月から実施することが基本との認識を示しながらも、景気情勢も見る必要があるとし、含みを持たせた。
<海外勢の金利上昇懸念は後退>
増税判断の材料としては、11月半ばにも発表されるとみられる2014年7─9月期国内総生産(GDP)が最重要だが、マーケットの反応も考慮されるとみられている。増税見送りによる金利急騰や引き上げの決断による株価急落は、アベノミクス遂行に大きな障害となるためだ。
10%への消費増税を見送った場合、最も懸念されるのは金利上昇だ。財政再建への「本気度」が疑われ、日本国債売りが殺到するかもしれないと警戒されている。1000兆円を超える「借金」を抱えながら、10年債の利回りは0.5%前半と、一部では「バブル」とも指摘される水準であり、反動の余地は小さくない。
「景気が足踏み状態とはいえ、1年前と比べればかなりの改善だ。株価は上昇し、円安も進んだ。これで消費増税ができないとすれば、いつできるのだということにもなりかねない」(国内投信・債券ファンドマネージャー)との声は市場に根強い。金利が急上昇すれば、銀行などの経営に大きなダメージを与え、日本株にも売りが波及するシナリオが浮上する。
ただ、先送りされても、1年もしくは1年半など期限を定めた先送りであれば、海外勢などの失望売りが殺到することはないとの見方もある。
BNPパリバ証券・日本株チーフストラテジストの丸山俊氏は「以前は財政規律の緩みによる金利上昇への懸念が、海外勢のなかにも強かった。だが、この1年ほどで、日銀が国債の大量購入を続ける限り、なかなか金利が上昇しないとの見方が定着したようだ。増税見送りでも失望には至らないだろう」と指摘する。
短期的な景気悪化を防ぐという目的であれば、市場の納得も得やすい。また、景気が回復し、株高が進めば、一時的にせよ税収も増えるかもしれないという擁護論もある。
「金利が上昇すれば銀行や運用機関からの需要も増える。0.7%に上昇すれば上出来ではないか」(三井住友アセットマネジメント・債券運用グループ、シニアファンドマネージャーの深代潤氏)と、金利上昇のメリットに言及する指摘もある。
他方、日銀による大量の国債購入が、金利上昇を抑制する要因として、多くの市場関係者の注目を集めている。国家予算は過去最大に拡大し、増税もできないなかで、中央銀行が大量の国債購入を続ける姿は決して「健全」とは言えず、日本国債市場の日銀依存に警鐘を鳴らす向きもある。
<増税決定なら政策パッケージに期待>
一方、10%への消費増税を決定した場合はどうか。金利は上昇しないとしても、株価は下落する可能性がある。「ただでさえ減速気味の日本経済がダメージを受け、リセッションになる可能性も出てくる」(外資系証券エコノミスト)という警戒感は株式市場ではかなり強い。
市場が注目するのは、マクロ経済政策のパッケージだ。消費増税だけでは景気に下押し圧力がかかり過ぎるため、財政支出や日銀の追加緩和、もしくは公的資金のリスク資産購入がセットで実施されるのではないかという思惑がある。特に日銀の追加緩和には海外勢の期待が大きい。
ただ、物価が日銀のシナリオ通りに上昇している下で、追加緩和を日銀が決断する可能性は低いとの思惑が、このところ市場でジワジワと広がっている。消費増税を決定することができるような、それなりに経済が底堅い状況では、将来の景気の下押し懸念に対応した追加緩和といっても説得力に欠ける。
財政支出も容易ではない。小規模な財政支出では経済を刺激する効果が薄くなるが、赤字国債の増発を伴う大規模な補正予算であれば、せっかく増税したのに財政規律への懸念が強まるということになりかねない。2015年度にはプライマリーバランスの赤字半減という財政健全化目標もあり、大盤振る舞いはしにくい。
市場の期待感は大きいものの、消費増税決定とともに政策パッケージを組むのは難しい作業になりそうだ。(ロイター)
杜父魚文庫
17055 内閣改造で注目度上がった消費再増税 古澤襄

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