■背景に米ロの力較べ 知恵比べ
ウクライナ情勢は表面的にウクライナと親露派の武力対決に見えるが、実態は米ロの新冷戦の対立。米国はEUを含めた対ロ経済制裁の強化でロシアを追い詰め様とした。
ロシアはこの包囲網を親露派に対する露骨な軍事支援の強化で押し戻す戦略に出た。いうならプーチンとオバマの力較べになったが、現状はプーチンの方に利がある。
その原因はロシアが数千人といわれる義勇軍をウクライナに投入して、ウクライナ軍を圧迫しウクライナが音をあげているが、これに対して欧米側は大規模な義勇軍を派遣して対抗するに至らない事情がある。オバマは最初からウクライナには地上軍を派遣しないと明言している。あくまで経済制裁の強化路線にこだわる。
アフガン、イラクからの米軍撤退を政権公約として大統領になったオバマだから越えられない一線に縛られている。出来るのはウクライナに対する武器支援だがウクライナ軍の志気は高くない。逃亡兵も出ているという。
EU諸国も必ずしも一枚岩ではない。とくにロシアの天然ガスなどに依存度が高い諸国は、これ以上のウクライナ情勢の悪化には尻込みしているのが実態であろう。ウクライナのことよりも自国の庶民の生活の方が大切だからである。
そこでオバマは北大西洋条約機構(NATO)を中心とした反ロの反転攻勢に出ている。NATO軍は米軍が主体となった軍事組織。しかし米ソ冷戦の終結に伴って軍事面の色彩は薄れている。対ロ反転攻勢も軍事よりも経済制裁に絞ったものにならざるをえない。
そこにもってきてイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」が無視できない残虐なテロ集団となって米国を脅かす存在となった。米国にとってウクライナの親露派武装組織と「イスラム国」武装テロ組織との二正面作戦を迫られる事態となった。ここでもイラク軍は弱体で米国の空爆に依存するが、地上軍を派遣しない米国だからせいぜい軍事顧問団の派遣にとどまっている。
苦しい米国はイギリスのウェールズで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の場で「イスラム国」打倒に向けた「中核的連合」を形成する方針を明らかにし、同盟国やパートナー国の幅広い支持を呼びかけた。
ただ、米地上部隊を投入する可能性は否定したから、空爆強化に同盟国に参加を呼びかけるにとどまっている。ロイターによれば、ヘーゲル国防長官は「ここに集まったグループは中核的連合だ」と述べ、ケリー国務長官も「今月の国連総会に間に合うようにイスラム国に対抗する包括的計画を策定することを望む」と強調している。
しかしイギリスのハモンド外相は「空爆に参加するかについては決定してない」と述べ、NATOの軍事面の統一行動は定まっていない。
正直にいって米国は二正面作戦を突破する具体策に苦慮している。対応策も一位が「イスラム国」対策、ウクライナの親ロ武装組織対策のウエートは低くなった。思い切ってプーチンと妥協して二正面作戦から脱する可能性すらある。ウクライナ停戦は極めて不透明でプーチン提案を下敷きにしたものだが、それだけにウクライナの不安感がある。
[ニューポート(英ウェールズ) 5日 ロイター]米政府は5日、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」打倒に向けた「中核的連合」を形成する方針を明らかにし、同盟国やパートナー国の幅広い支持を呼びかけた。ただ、地上部隊を投入する可能性は否定した。
オバマ大統領は英ウェールズで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の場で同盟国の協力を求めたが、イラクでの空爆にどれだけの国が参加を表明するかは不透明だ。
首脳会議に合わせて開かれた10カ国の外相・国防相会議で米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、協力するにはさまざまな方法があると強調した。
ケリー氏は、「(イスラム国が)領土を奪わないよう攻撃し、われわれ自国の部隊を派遣せずに、イラクの治安部隊や(イスラム国と)戦う用意のある地域の他の部隊を支援する必要がある」と述べた。
「ここにいる全てにとって、越えてはならない一線は、軍が地上に足を踏み入れることだ」とした。
ヘーゲル国防長官は会議に出席した諸国に対し、「ここに集まったグループは中核的連合だ」と述べた。「この中核グループがより大きな連合を形成し、この問題に対処する」とした。
会議には米国以外に欧州から英仏独伊とポーランド、デンマーク、他にはカナダ、オーストラリア、トルコが出席した。
ケリー氏は同盟国が協力し、今月の国連総会に間に合うようにイスラム国に対抗する包括的計画を策定することを望むと述べた。
欧州の当局者らによると、キャメロン英首相とオランド仏大統領はオバマ大統領との個別会談で、イラクでの空爆を単に命令する以上の行動が必要とされており、全体の戦略が必要だとの見解を示したという。
フランスは今週、軍事行動の可能性も含め、イスラム国との戦いにあらゆる面で関与する用意があると表明。一方、英国のハモンド外相は5日、空爆に参加するかについては決定してないと述べた。
英政府の当局者は匿名を条件に、「一段の行動が必要とされているという認識は強まっているが、慎重な対応が必要だ」と述べた。(ロイター)
杜父魚文庫
17097 イスラム国打倒へ「中核的連合」、米国が形成方針 古澤襄

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