17122 イスラム国との戦い、アラブ諸国は米に懐疑的     古澤襄

■「連合」参加に気乗りせず
【ワシントン】オバマ米大統領は過激派組織「イスラム国」との戦いで、アラブ諸国と連合を組み、支援してもらうことを計画の柱にしている。だが今のところ、アラブ諸国の政府高官たちはそのアイデアに気乗りしていない。
中東地域の政府は、米国主導の連合への参加を表明する前に、イスラム国に対してどのような軍事的・財政的・外交的措置を取る準備があるのかを明確にすることをオバマ政権に迫っているという。米国とアラブ諸国の政府高官が明かした。
サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダンを含む主要国は、米国政府が他の国々、特にリビア、エジプト、チュニジアのイスラム武装組織に対してもより積極的に追求すると約束することを求めている。「イスラム国」はイラク・シリア国境をまたがる地域を制圧している。
■アラブ諸国参加の前提
協議に参加しているあるアラブ国家の高官は「イスラム国や中東地域のその他の過激派がもたらす脅威に対処する必要性に関しては、誰もが合意している」と話す。「だが、その目標をどのように達成するかを示す戦略や計画が見えてこないと、アラブ諸国が戦闘に参加するのは難しいだろう」
ケリー国務長官ら米政府高官は今週から中東に散らばり、イスラム国との戦いで米国主導の連合に参加するよう働きかける。

7日に放送されたNBCニュースとのインタビューで、オバマ大統領は「ヨルダン、UAE、トルコといった米国の同盟国だけではなく、サウジアラビアなど、スンニ派国家も参加する必要がある……近隣国なのだから。そうした国々は今現在、米国以上に直接的な危険にさらされている」と述べた。
先週行われたアラブ諸国の高官たちへのインタビューでは、中東における米国の役割が縮小したこともあって、イスラム国に対するオバマ政権の作戦には依然として懐疑的だという声が聞かれた。
主要なスンニ派国家、特にサウジアラビアは、オバマ大統領がアサド政権と戦う穏健派の反政府勢力を支援するためにもっと積極的にシリアに介入しなかったせいでイスラム国の台頭が加速したのだと考えている。
シリア国内でアサド政権と戦う穏健派の反政府勢力を拡大する上で、オバマ政権はアラブ諸国とトルコに大きく依存してきたが、ほとんど成功しなかった。必ずしも政府の同意を得ずにそうした国々から供給された資金や武器は、最終的に過激派組織の手に渡ってしまったと警鐘を鳴らす米政府高官もいる。
■サウジ国王はオバマ氏に憤慨
アラブ諸国高官たちによると、サウジアラビアのアブドラ国王は、シリアの政権が民間人に化学兵器を使用した後に、オバマ大統領が警告していた軍事攻撃を実行しなかったことに特に憤慨しているという。
あるアラブ国家の高官は「それがイスラム国台頭のきっかけの一つとなったとサウジ政府は考えている」と語った。
オバマ大統領は欧州で先週、英仏トルコを含む9カ国から、対イスラム国の新たな連合に参加することへの合意を取り付けた。アラブ諸国で参加を表明した国はまだない。
オバマ大統領は、新たな連合はさまざまなアプローチを組み合わせることになると述べた。それは▽イラクのイスラム国戦闘員を標的とした空爆▽イスラム国と敵対している中東の武装勢力への武器供与▽軍事作戦の資金調達のためにイスラム国が不法に原油を販売することを防ぐ統一措置などだ。
米国は、イスラム国の戦争機構に向かう資金や外国人戦闘員の流れを寸断する上で、サウジアラビア、UAE、カタール、トルコ、ヨルダンが非常に重要だとみている。また、こうした国々の政府がその影響力を使って、ここ数カ月間にイスラム国と同盟を築いたイラクのスンニ派をイスラム国から引きはがすことも望んでいる。
米政府高官たちは、そうした国々がイラク軍やシリアの反政府勢力に訓練を提供し、場合によっては合同軍事作戦に参加することで、イスラム国に対する軍事作戦が強化されることを想定していると語った。
カタールとUAEは2011年、北大西洋条約機構(NATO)によるリビアの独裁者、カダフィ大佐を狙った空爆を支援した。
主要なスンニ派国家との協議に参加しているある米政府高官は「その2カ国は訓練のための物理的な空間や場所を提供することができ、訓練・装備・助言で米国と協力することに合意することもできる」と話す。「両国は代弁者となり、穏健派のスンニ派の声を彼らのコミュニティーに発信することもできる」。
外遊の概要を聞かされた外交官によると、ケリー国務長官はヨルダンとサウジアラビアを訪れる予定だという。リヤドではサウジアラビア、UAE、オマーン、クウェート、バーレーン、カタールが加盟する湾岸協力会議(GCC)の外相たちとの会談が予定されている。
先週土曜日(6日)、ケリー国務長官はイスラム国について協議するためにナビール・エルアラビー・アラブ連盟事務総長に電話をした。「両氏はアラブ連盟とその加盟国が連合において強い姿勢を取る必要性について話し合った」と国務省は明かしている。
イスラム国や、シリアやイラクで活動するその他の過激派組織による脅威が拡大したこの数カ月間に、米国とアラブの同盟国のあいだに分裂が浮上してきた。
■米国と関係なく戦う意志
米財務省の高官は、イスラム国やアルカイダ関連組織への資金がペルシャ湾岸諸国、特にクウェートとカタールから流入し続けていると懸念を口にする。先月、米財務省はそうした組織に資金を提供したとしてクウェート在住の3人の資本家に制裁措置を科した。
クウェートとカタールの高官は自国の政府によるイスラム国やその他の過激派組織への資金提供を否定してきた。
サウジアラビア、エジプト、UAEの3カ国は中東地域の過激派組織と戦う上で、米国とは関係なく、独自に活動する意志が強まっていることを示してきた。米国はエジプトのムスリム同胞団のイスラム主義運動や北アフリカや中東で活動する関連組織がもたらす脅威を過小評価してきた、とその3カ国は主張する。
米政府高官は、先月あったリビアのイスラム武装勢力に対する一連の空爆はUAEとエジプトのしわざだとにらんでいる。エジプトの基地から発進したUAEの戦闘機がリビアの首都トリポリの標的を攻撃したのだという。

エジプト政府もUAE政府もその攻撃で果たした役割については肯定も否定もしていない。しかしアラブ諸国の高官たちは、こうした軍事作戦は、エジプトとUAEが拡大しているとみる安全保障上の脅威への対応で、米国への信頼が失われている証拠であると述べた。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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