■必要なアジアの防衛強化 米ウォール・ストリート・ジャーナルが社説
金正恩氏のことを忘れていないか。このところ、北朝鮮の独裁者である金第1書記は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やイスラム国のアブ・バクル・バグダディ指導者の影に隠れてしまっている。だが、それは彼がおとなしくなったからではない。金氏は1月以降ほぼ20回にわたって短距離ミサイルを発射し、また国際原子力機関(IAEA)は寧辺で新たな核活動が行われているとの証拠を明らかにした。14日には、北朝鮮は同国に拘束されている米国人3人のうちマシュー・ミラー氏に対し、6年の労働教化刑を言い渡した。
したがって、米国と韓国が懸案の戦時作戦統制権の韓国への移譲を延期しようとしていることは朗報である。オバマ政権は10月に、朝鮮半島有事の際の作戦統制権の韓国への移譲を延期すると発表する見通しだ。現在のところは、戦時作戦統制権は2015年12月に失効することになっている。
韓国は10年前に反米的なスタンスだった盧武鉉大統領の下で、戦時作戦統制権の韓国への移譲を要求した。平時の統制権は1994年に移譲されている。当時米国は中東問題に集中しており、これに同意した。両国は12年までに米国が作戦統制権を放棄することで合意した。ところが、韓国が程なく翻意した。
10年に北朝鮮の非核化問題が暗礁に乗り上げているところに、北朝鮮が韓国軍の哨戒艇「天安」を魚雷で沈没させる事件が発生し、時の韓国の保守党政権は米国に対し作戦統制権の移譲延期を要請し、新たに15年が移譲の目標となった。だが、韓国は昨年これについても破棄するよう求めた。
作戦統制権の移譲はそれ自体危険を伴う。移譲されれば、現在の米軍主導の統一指揮権から、米国は米軍を、韓国は韓国軍を指揮する体制に変わる。そうなると、不透明な戦時には戦略的な混乱や戦術的な間違い、同士撃ちの危険性が高まる。
米国は、延期要請を歓迎しているようだ。しかしオバマ政権の作戦統制権の移譲延期の発表の詳細はまだはっきりしていない。疑問の一つは、移譲が延期される――その場合はおそらく20年かもしくはそれ以降になるだろう――のか、それとも破棄されるのかである。これまでに2回延期されてきたことから、状況に関係なく改めて独断的に目標を設定するのは賢いことではないだろう。
もう一つの疑問は、韓国側が自国の防衛への支出や、日米との関係強化のためにどのような約束をするかである。韓国の防衛費は増加しているが、同国の長期的な目標を大幅に下回ったままである。また韓国軍は強力ではあるが、他の政府機関との合同作戦の調整に問題がある。それは、4月の韓国客船「セウォル号」の沈没事故の救出作戦の不手際で浮き彫りになった。
韓国はまた、ミサイル防衛で限界がある。というもの同国は、米国主導のミサイル防衛システムへの統合を拒否しているからだ。中国の新華社通信は、韓国が同システムを米国と統合させれば、「急速に発展している中国との関係を損なう」と警告した。韓国の朴槿恵大統領は、4月にオバマ大統領とともに発表した共同声明で、ミサイル防衛での協力が重要であるとの認識を示したものの、その後この問題に関する両国の話し合いはほとんど進展していない。
共同声明では米、韓、日本との3国の協力の重要性もうたわれたが、日韓関係は冷え込んだままだ。日韓関係の悪化は、ミサイル防衛協力や情報共有など、中国が東アジアでの覇権を握るのを食い止める取り組みの障害となっている。
米国の戦時作戦統制権の移譲延長の決定は、米韓や日米韓の関係強化の機会となる。米韓の協力は朝鮮半島の安全保障にとって重要なのと同様に、日米韓の関係強化は太平洋の長期的な平和や繁栄にとって不可欠である。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
17191 北朝鮮の独裁者のことを忘れていないか 古澤襄

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