17212 スコットランドの独立機運が世界に鳴らす警鐘 古澤襄

■Mark Leonard氏のロイター・コラム
[16日 ロイター]スコットランドの独立機運について、多くの人は政治的な先祖返りだとみているが、実際にはむしろ、未来の政治について多くを物語っている。
今週実施されるスコットランド独立の是非を問う住民投票。複数の世論調査からは接戦が予想されており、最終的に独立反対派が勝利する可能性もまだある。筆者はスコットランドにとっても、英国にとっても、その方がいいと思っている。
しかしながら、住民投票の結果がどうであれ、独立反対派より賛成派の方がスコットランドの政治課題の形成に影響力をもたらしたことは認識しなくてはならない。独立機運の高まりは、世界中の政治にも変化をもたらし得る。
これまでのスコットランド独立をめぐる解説では、スペインのカタルーニャやベルギーのフランドル、カナダのケベック州などにも独立機運が波及するかどうかに焦点があてられている。

だが実際には、スコットランドの政治的傾向は、独立機運が特に高まっていない多くの国々の変化にもかかわっている。
特に4つの政治的傾向を指摘したい。
スコットランド独立反対派は、通貨の問題や欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)への加盟の問題、英国の一部であることの経済的恩恵について訴えている。今週に入ると、独立によってもたらされるスコットランド金融業界へのリスクについての話題で持ちきりだった(いくつかの銀行は、もし独立するならロンドンに拠点を移すと発表した)。
英財務省の推計によると、スコットランドは英国の他地域に比べて、人口1人当たりの公共支出が14─16%多いという。
しかし、こうした議論の多くは、スコットランドが1935年以降、保守党政権を支持していないにもかかわらず、前世紀の半分以上は保守党に支配されていたという独立賛成派の主張に比べると色あせて見える(先の総選挙では、キャメロン首相率いる保守党はスコットランド選挙区からの59議席のうち、わずか1議席を獲得しただけだった)。
こうした風潮は世界各地で強まっている。たとえ投票が行われても、自分たちの声は届かないと感じている。欧州の選挙では、フランスの国民戦線やギリシャの急進左派連合といったポピュリスト政党は、国民は自国政府を変えることはできても、より大きな政策を変えることはできないと主張する。選挙は身近で有効な手段かもしれないが、コントロール不可能な世界的な力には勝てないと感じている国々は共感を覚えるだろう。

2)進歩的ナショナリズム
独立賛成派のキャンペーンビデオは、極右的な考えを称賛するというより、社会主義的なユートピアとしてスコットランドの未来を描いている。ビデオのなかで、スコットランドの公正さと英国の拡大する不平等を、英国の緊縮財政とスコットランドの公共支出などを対比させている。賛成派にとって、1票を投じることは保守党政権からの自由を意味するだけではなく、社会主義的楽園へのいざないでもあるのだ。
歴史的な憤りや、映画「ブレイブハート」に描かれているようなスコットランドへのノスタルジアは、ナショナリズムの原動力の一部でしかないが、これもまた、勢力拡大を狙って再生をはかる欧州のナショナリスト政党の多くがたどる道である。調査機関ユーガブのピーター・ケルナー社長によれば、こうしたキャンペーンの成功は、経済動向の政治的表現にあるという。
3)説得力を失ったエリート層
多くの人は当初、英国の主要政党やほとんどの英企業が独立に反対しているという事実が、独立反対派にプラスに働くと考えていた。保守党、自由民主党、そして野党の労働党も結託して、スコットランドの独立機運に水を差し、スコットランド国民党が取り得る政治的な選択の幅を狭めた。3党の首脳はスコットランドの通貨としてポンドの使用は認めないとする共同声明を出し、英国残留を訴えるためスコットランドにそろって出向いたりした。
しかし、住民投票をめぐる動きが活発になるにつれ、賛成派はこうしたエリート層の考えに反対することで求心力を高めていった。賛成派は、反対派が不安を拡大させ、スコットランドを黙らせるために既得権益と手を組んでいると主張している。
スコットランド国民党のサモンド党首は、英国のエリート層に対するスコットランド人の擁護者としてのイメージを打ち出すことに成功している。成功したスコットランド人の多くが仕事の場としてロンドンを選んでいるため、残された者たちの代弁者となることはサモンド氏にさらなる説得力を与える。
スコットランド独立運動の原動力は、国民の擁護者を標榜する政治勢力から現在の秩序を守ろうと、既存政党が結託するような多くの民主主義国家にも当てはまっている。
4)「1つの国家」の終焉
住民投票の法的判断がどうであれ、スコットランドはすでに事実上独立していると言える。驚くべきことに、スコットランドでは、英主要政党の(イングランドの)指導者たちは、誰一人として正当な代弁者として見られていない。
だがこれは、スコットランドが長い間、英国の他地域とは異なったメディアを持ち、政治的議論にも独自性があったことを考えればさほど驚きではない。
多くの点で、スコットランドの文化的、知的な分離は何年にもわたり続いてきた。そしてこれは、同じような考えを持つグループに集約され、自分たちの先入観と好みを強めるだけのメディアを持つ多くの民主主義国家に暮らす人たちの共感を呼ぶだろう。
英国は世界有数の多民族からなる民主主義国家だが、18日の住民投票で約300年に及ぶ共存の歴史に終止符が打たれるかもしれない。投票結果がどうであれ、かつては結束を尊んだ世界中の人々が、今度は独立を夢見るようになることを筆者は危惧している。
*筆者は、シンクタンク「欧州外交評議会(ECFR)」の所長を務め、著書「Why Europe will run the 21st Century(原題)」や「What does China think?(原題)」は15カ国語以上で出版された。(ロイター)
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