17281 書評 『住んでみたヨーロッパ、9勝1敗で日本の勝ち』    宮崎正弘

■なぜ諸外国より日本のほうが住みよいのか 外国に暮らし、あちこちを歩けば日本の良さが理解できるのだ
<<川口マーン惠美『住んでみたヨーロッパ、9勝1敗で日本の勝ち』(講談社α新書)>>
作家でもある川口さんは日常生活の目線で他国の表情を微細に観察する。ドイツに住むといっても、つねに近隣諸国を旅行し、またご主人の赴任先であるイラクでも暮らした経験がある。
近年もノルウェイ、ウィーン、アルバニアなどを歩かれた。日本にいても北九州へ行かれたり、広島から四国など。きっと旅行が猛烈に好きなのだろう。
前作の『住んでみたドイツ、8勝2敗で日本の勝ち』は突如、十数万部のベストセラー入りしたが、本書はその続編。日本の勝率は欧州全体ではまた上がった。こうなると第三弾のタイトルは日本の全勝?
冗談はさておき、本書には何気なく挿入されている重要な文章がある。抜き書きしてみよう。
「歴史を書き換える、美化する、あるいは都合の悪いことを削除するのが上手なのは、何もアジアの国だけではない。どこの国もやっていることなのだ。程度の差こそあれ、日本もやっているだろう。そして、欧米の国々は、おそらく一番上手にやったのである。
ドイツ語で『歴史』という言葉は物語、つまり作り話である。最初、ドイツに渡った頃、ドイツ語はなんて曖昧なのかと怪訝に思ったが、いまではドイツは非常に正しいとおもっている。ドイツ人は歴史はつくりばなしであるということをきちんと認識している」
日本の美の復権についても観察がある
「十九世紀、日本は、ヨーロッパの芸術家たちにとってエキサイティングな存在だった。ゴッホは浮世絵を集めていただけでなく、懸命に模写し、そこに書かれている日本語の文字まで熱心に真似た。浮世絵や日本美術から影響を受けた画家は、ほかにロートレック、ドガ、ルノワール、ゴーギャン」がいる。
ハンブルグでは北斎展が開催された(秋に上野でも開催されるが)。
ところが「その浮世絵を、当時の日本人は価値のないものと思ったらしく、その結果、多くの作品が二束三文で海外に流失した」
そうです。北斎展はなんと米国「ボストン美術館」から借りてくるのです!
ようやく日本も正気回復、保守化の流れが顕著となり、絵画で云えば、いま若仲も狩野派の屏風画も出光や国立博物館に常設されている。
直木賞作家の安部龍太郎は長谷川等伯を書いた。
評者も、そういえば岡倉天心の記念館を五浦海岸まで見に行き、「屈原」の絵も見たし、菱田春草展は初日に見学した。等伯に至っては滋賀県の山奥の設楽美術館まで、仏教音楽の声明は、どこへでも聞きに行くのである。だからわれわれから見れば、やっぱり日本の勝ち、だ。
杜父魚文庫

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