17350 対越武器禁輸の解除 米CNN、英ロイター、仏AFPの違い    古澤襄

ワシントン・時事が、「米政府 ベトナムへの武器禁輸を一部解除」を速報してきたが、米CNN、英ロイター、仏AFPも詳報を伝えてきた。焦点はオバマ政権が、どこまで本気でベトナムに肩入れするつもりなのか、本気度によっては中国との関係悪化を招きかねない。
禁輸措置の解除の働きかけはCNNによれば、ベトナムからあったという。中国を必要以上まで刺激したくない米国だったが、ケリー国務長官との外相会談に正式に持ち出されたから、「現時点では海上安全保障の用途に絞って武器輸出を解禁する」(ロイター)との処理をした。あくまで”一部解除”に過ぎないとした。
米CNNの報道はオバマ政権の本音であろう。これが仏AFPになると「1975年のベトナム戦争終結後、ベトナムへの武器輸出を凍結していた。元敵国の武器輸出解禁は米国にとって歴史的な決定」と高らかに歌いあげた。当然のことながら「中国の反発が予想される」と遠慮せずに指摘した。
英ロイターは「武器輸出禁止措置の一部を解除はベトナムの海上安全保障の改善支援」と表現が軟らかい。
ポール・ジュリアス・ロイターが設立した世界に冠たるロイター通信社だったから、敬意を表して”英”ロイターの冠(かんむり)をつけたが、カナダに本拠を置く大手情報サービス企業・トムソンに買収されて2007年からトムソン・ロイターとなったから、「ロイター」ブランドを使ってはいるもののアメリカ・カナダ寄りの論評となるのは無理はない。
ただ老舗ロイターらしい指摘をしている。
<米関係筋によると、最終的にロッキード・マーチンが製造する対潜哨戒機「P─3オライオン」をベトナムに売却する可能性もある。米国ではP─3は現在、後継機でボーイング製の「P─8A」への転換が進められている。>

この点では仏AFPは、ロイターほど突っ込んだ取材をしていない。
だが、米国務省高官から「ケリー米国務長官が二日、ベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相との会談の中で”海上警備目的に限定し、殺傷力のある武器も含む防衛装備の移送を認める”よう、米政府が政策の見直しに動いていることを伝えた」とスクープしている。
同じワシントンからのニュース報道だが、世界の代表的なメデイアでも取材の濃淡がこれだけあるから読み飛ばしてしまう訳にはいかない。
■ベトナム・ワシントン(CNN)米国務省は2日、ベトナムへの武器禁輸措置を一部解除すると発表した。解除の対象は海上安全保障分野に限られる。ベトナム戦争以降40年近く続いた禁輸措置の解除で、両国関係は大きく一歩前進する。
ケリー米国務長官は発表に先立ち、訪米中のベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相と会談した。米国務省のサキ報道官は、ケリー長官が防衛協力の条件としてベトナムの人権状況の改善を求めたと説明。両国の防衛面での協力関係は今後も常に見直しの対象になると述べた。
南シナ海で中国との領有権問題を抱えるベトナムは、米国に対し武器禁輸措置の解除を働きかけていた。今年に入り、南シナ海のベトナムが排他的経済水域(EEZ)と主張する海域で中国が石油掘削装置を設置するなど、両国の緊張は高まっている。
米国はこの問題を巡り中国を非難したが、南シナ海を国益に関わる重要な海域と中国は非難を不当として反発していた。(CNN)
■米国が対ベトナム武器輸出を一部解禁、南シナ海の自衛力向上支援
[ワシントン 2日 ロイター]米政府は2日、長らく続けてきたベトナムに対する武器輸出禁止措置の一部を解除したと発表した。ベトナムの海上安全保障の改善支援が目的で、ベトナム戦争終結から40年近くを経て実現した歴史的な動きといえそうだ。
米国務省のサキ報道官は「国務省はベトナムに対して、海上安全保障に関する防衛的な装備を今後移転することを認める措置を打ち出した」と語った。
また複数の国務省高官は別途、現時点では海上安全保障の用途に絞って武器輸出を解禁すると説明。南シナ海で中国が影響力を高めようとしている中で、ベトナムの同海域における警備態勢や自衛力を向上させることに主眼を置いているが、将来的には空輸システムや艦艇なども輸出対象になり得るとの見方を示した。
高官の1人は「今回の決定はこの先の両国の協力を生み出す上で非常に重要な最初の一歩だ。禁輸措置の見直しによって、われわれはベトナムが南シナ海におけるプレゼンスという文脈で自らを守る力を提供できるようになる」と述べた。
米関係筋によると、最終的にロッキード・マーチンが製造する対潜哨戒機「P─3オライオン」をベトナムに売却する可能性もある。米国ではP─3は現在、後継機でボーイング製の「P─8A」への転換が進められている。
一方、複数の国務省高官は、輸出を検討する可能性がある具体的な武器システム名や、実際に最初に輸出に合意する期日については言及を避けた。ただ、輸出解禁対象は防衛目的が主たるものであるため、中国からの反発は予想されないと表明した。(ロイター)
■米、対ベトナム武器輸出を40年ぶり一部解禁 南シナ海防衛で
【10月3日 ワシントンD.C./米国 AFP】南シナ海における防衛力を強化するため、米政府は2日、ベトナムに対する武器禁輸措置を40年ぶりに一部解除すると発表した。中国の反発が予想される。
米国は1975年のベトナム戦争終結後、ベトナムへの武器輸出を凍結していた。元敵国の武器輸出解禁は米国にとって歴史的な決定。

国務省は、解禁対象は海上警備に関する装備に限定されることや、ベトナムの人権状況が「若干の」改善をみせる中で両国関係が修復されつつある点を強調している。
国務省高官によると、ジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官が2日、ベトナムのファム・ビン・ミン(Pham Binh Minh)副首相兼外相との会談の中で「海上警備目的に限定し、殺傷力のある武器も含む防衛装備の移送を認める」よう、米政府が政策の見直しに動いていることを伝えた。
戦車など殺傷力の強い他の兵器は今後も禁輸対象で、米政府としては引き続きベトナム政府に対し人権状況の改善を求めていくという。
米高官らは、今回の方針変更について「対中国」を念頭においた対応ではなく、具体的な輸出の予定もないとしつつ、ベトナム側から要望を受けた場合は「ケース・バイ・ケース」で検討すると述べている。(AFP)
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