17373 香港政府ナンバー2、交渉のカギ握る女性キャリー・ラム氏    古澤襄

■「善良な戦士」の評判は
【香港】追い詰められた香港の梁振英・行政長官が民主化デモの学生リーダーとの交渉に送り込む林鄭月娥(キャリー・ラム)政務官(57)は、「善良な戦士」というニックネームで知られている。
ラム氏はナンバー2として梁長官率いる香港政府に加わるまでは、香港で最も人気の高い政治家の1人であり、実行力のある人物として定評があった。
ラム氏が今、直面している課題はこれまで関わった問題とは桁違いに大きい。しかも、大規模デモに発展するまでのここ数カ月の間に、ラム氏は民主派などから中国の中央政府の政策の支持者とみられるようになり、ラム氏の人気は衰えた。
ラム氏は3日夜、テレビを通じ、香港の繁華街、旺角で起きたデモ反対派とデモ参加者の衝突について強く懸念していると述べた。対話の日時と場所を設定するために学生の代表と接触していることを明かし、「会合が近く実現することを期待している」と述べた。
しかし、デモ反対派がデモ参加者を攻撃した際に何もしなかったとして、ある学生団体のリーダーが3日、対話に参加しない意向を表明した。このことが示す通り、ラム氏が直面している課題は確かに大きい。
この1週間、梁長官は公の場にほとんど姿を見せず、ラム氏が政権の顔としての役割を果たしてきた。ラム氏が先月29日、できる限り早く政治改革プロセスを進める予定とした前日の発言を翻し、政治改革に関するこれ以上の議論を先送りにすると述べた。このときのラム氏は香港の行政長官選挙について中央政府が下した決定にデモ参加者が怒りを感じていることを承知しているようだった。
しかし、ラム氏は中央政府に決定を撤回するよう要請することは非現実的とも述べた。中央政府の決定は、香港の行政長官の候補者を中央政府寄りのメンバーで構成する指名委員会で選ぶというものだ。
ラム氏は今年、香港政府の庁舎内で地元や海外の企業経営者に対し、「中国政府に反対する抗議活動はビジネスや、国際金融の中心地としての香港のイメージを損なう」というメッセージを伝えた。当時、民主化推進派の活動家団体「オキュパイ・セントラル(中環を占拠せよ)」は行政長官の直接選挙を要求、認められなければ大規模な不服従運動を行うと警告していた。
ラム氏ら香港政府幹部との会合後、カナダ、インド、イタリアの商工会議所を含む5つの経済団体が中国語メディアに共同で広告を掲載、「セントラル地区をまひさせる恐れのある脅威に重大な懸念」を抱いていると表明した。
事情に詳しいある人物はこの広告について「政治的な意図は全くなかった」と述べ、「純粋にビジネス上の影響に関するものだった」と説明した。広告は抗議活動でビジネスが影響を受ける可能性について懸念を示したもので、別の人物によると、香港政府、中国政府のいずれからも広告の掲載を求める圧力はなかったという。
にもかかわらず、広告をきっかけに懸念が広がった。在香港カナダ領事館は広告掲載について報告を受けていないとして、カナダの商工会議所を非難した。カナダのジョン・ベアード外相はツイッター上に、カナダは香港の民主的な発展を強く支持すると投稿した。
8月になると、ラム氏は香港の民主派議員と香港駐在の中国政府代表、張暁明氏の会合の場を複数回にわたって設けた。会合に出席した議員の1人、梁耀忠氏は数十年にわたって議員を務めているが、中国政府の駐香港連絡弁公室のトップに会ったのは初めてだと語った。中国政府は8月31日、香港の行政長官選挙に関する決定を下した。
梁議員はラム氏が会合を設置した動機について、「決定を行う前に民主派の議員の意見を聞いたように見せかけるためだ」と述べた。
梁議員によると、同議員が出席した会合で、張氏は中国政府が民主派の政治家を容認していることに議員は感謝すべきだという厳しい内容の発言をしたという。
梁氏は「ラム氏は政権入りして180度変わってしまったように見える。当初は梁政権にあまり協力的ではなかったようだが、今では民主派と戦ったり選挙のあり方をめぐる中国政府の締め付けに賛同することに多くの労力を費やしているようだ」と述べた。
梁氏は、学生団体とラム氏が対話しても香港政府から妥協を引き出せるとは思っていない。ラム氏とラム氏の事務所にコメントやインタビューを要請したが、回答はなかった。
ラム氏が仲裁役として評価を得たのは2007年。当時、歴史的な価値のある埠頭(ふとう)の取り壊しを阻止しようと抗議活動家が現場を占拠していた。取り壊しは行われたが、ラム氏が重要な局面で現地を訪れたことで騒ぎは沈静化、緊張が和らいだ。
香港の開発業者アラン・ゼマン氏はラム氏について「ホースを持った消防士だ。火の消し方を知っている」と述べた。ゼマン氏はテーマパーク「香港海洋公園」の会長を務め、西九龍文化地区の開発に関わっていたときにラム氏とつきあいがあった。
ゼマン氏によると、ラム氏の最大の財産は制度を熟知していることだという。「トップダウンで命令を下し、下からも意見を上げさせる。システムを使いこなすことができる。非常に現実的だ」と述べた。ラム氏の性格については「保守的で公務員的」と評した。
「人々は彼女が真面目であることを知っている。(梁長官の)問題は彼があまりに中国政府寄りだと人々が認識していることだ。みんな、長官は自分たちのためには戦わないと言っている。キャリー・ラムにはそうした問題がない」
ラム氏が梁政権入りしてわずか2カ月後の2012年9月、ラム氏はテレビのインタビューで、梁長官の下で自分への信頼が損なわれたと言い、感情を抑えきれず泣き出した。
ラム氏は自身の人気低迷について、梁長官に対する市民の不信感だけでなく、中国本土の女性が香港に来て出産することなどさまざまな問題をめぐる対立にも原因があると述べた。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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