17402 メルケル首相、独経済の低迷続けば財政拡張路線に転換も    古澤襄

■足元がおぼつかない欧州経済
[ベルリン 8日 ロイター]足元がおぼつかない欧州経済にとって今最も起きてほしくない事態は、屋台骨を支えるドイツ経済が突然落ち込むことだろう。
だが、最近のドイツの経済状況は非常に軟調で、メルケル首相に国内で財政の緊縮姿勢を緩めることを納得させ、フランスやイタリアなど経済不振に苦しむ国がかねてから求めてきた「景気刺激のための財政出動」を欧州全体にもたらす上で、うってつけの要素であるのかもしれない。
今のところドイツ政府が掲げる経済の最優先課題は「シュバルツェ・ヌル(ブラック・ゼロ)」、すなわち2015年に財政の黒字化、もしくは収支均衡にもっていくという公約の達成だ。
この目標は昨年、メルケル首相が属する保守系与党と最大野党である社会民主党(SPD)が大連立政権を樹立するに当たって合意したもので、達成できれば両党にとって多大な恩恵をもたらす歴史的な偉業という意味で複数の政府当局者は「至高の目標」と称している。
メルケル氏が再三にわたってインフラ整備のために歳出を拡大せよという国内外からの要求をはねつけてきたのも、この目標が主な理由といえる。
しかし第2・四半期にマイナス0.2%成長を記録し、第3・四半期もゼロ成長の可能性があるドイツ経済が来年にかけても弱いままであるなら、メルケル氏といえども方針転換を迫られ、欧州中央銀行(ECB)や国際通貨基金(IMF)が提言してきたような公共投資に踏み切る事態もあり得る。
あるドイツ政府高官は「財政均衡化目標を達成する唯一の手段が歳出削減で、景気後退を深刻化させてしまうなら、その手法は放棄されて歳出は拡大されるだろう」と語った。
メルケル氏に近い別の政府当局者も「ドイツ経済が相当弱含むならば、状況は一変する」としている。

<さえない指標>
現時点では「シュバルツェ・ヌル」は十分達成できそうに見受けられる。
失業率は依然として再統一後の最低に近い7%未満で推移し、税収は記録的ペースで国庫を潤し続けている。超低金利によって急低下した借り入れコストも財政の支援材料だ。ドイツ連銀の見積もりでは、過去7年間で財政が節約できた金額は1200億ユーロに上り、昨年だけでも370億ユーロとなった。
コメルツ銀行のエコノミストで財政問題を専門とするエッカート・テュフトフェルト氏は「もちろん経済がかなり弱くなれば財政均衡化にとってリスクは存在するが、われわれはそうした展開は起こりそうにないとみており、ドイツ経済は長期の景気後退でなく一時的な軟調局面に見舞われるというのがわれわれの基本シナリオだ」と述べた。
それでも最近のドイツの経済指標は異例なほどさえない。今週発表された8月の製造業受注と鉱工業生産は、世界金融危機が最も深刻だった2009年以降で最大の落ち込みだった。
IFO経済研究所の業況指数も5カ月連続で低下しており、9月のドイツ製造業購買担当者景気指数(PMI)はこの1年3カ月で初めて活動縮小を示す水準になった。
7日にはIMFがドイツの今年の成長率見通しを1.9%から1.4%に、来年も1.7%から1.5%にそれぞれ引き下げた。

ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッシャー所長は「ドイツ経済の先行きに対するリスクは大きい」と指摘し、具体的にユーロ圏経済の弱さやフランスとイタリアの政治リスク、ECBのストレステスト(健全性審査)で欧州の銀行に問題が生じる恐れ、ウクライナと中東の地政学リスクなどを挙げた。
フラッシャー氏は「わたしの予想ではドイツ経済がさらに悪化すれば、政府の政策が根本的に見直される。この変化は急速かもしれない」とみている。
DIWの推計によると、ドイツでは数十年に及ぶ官民による国内インフラや設備向け投資の減少で、年間で800億ユーロの投資不足に苦しんでいるという。
1990年代初頭はドイツの投資が国内総生産(GDP)に占める割合が23%あったのに、現在は17%程度と経済協力開発機構(OECD)諸国平均の20%も下回っている。
<政府内にも温度差>
このためフラッシャー氏や、政府経済アドバイザー「5賢人」の1人であるペーター・ボフィンガー氏などは、政府が財政均衡化目標を最優先するのは間違いだと考えている。
ただ今のところ、政府内でこうした見解に賛同する声はまったく聞かれない。
ショイブレ財務相は、他のユーロ圏諸国や20カ国(G20)メンバーからの歳出拡大要求を一貫して拒絶し、代わりに民間セクターの投資喚起策の必要を訴えている。
それでも政府内も一枚岩でない兆しが見える。先月にはアスムセン労働次官がECBのクーレ専務理事とともに、ドイツ政府に対してユーロ圏の成長押し上げのために投資の促進と給与税の減税を求めた。
アスムセン氏は、ECB理事からドイツ政府に昨年復帰しており、引き続き強い発言力を有する。
SPD党首であるガブリエル副首相兼経済・エネルギー相の所轄官庁からも、公共投資を拡大するべきで、「シュバルツェ・ヌル」が合意された約1年前とは経済状況が変わったという見方に同調する向きが出ている。
ガブリエル氏に近いある政府高官は「財政均衡化の約束は、合意した当時の経済環境を考えれば間違いではなかった。しかし状況は変化している。われわれは今、インフラ投資の点で大きなニースが存在し、経済環境が悪化したということを認識している」と打ち明けた。(ロイター)
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