10日の杜父魚ブログで読者がダントツで集中したのは「護衛艦”いずも”中国と朝日新聞が猛批判する理由は?」であった。その多くは朝日批判なのは否定しない。だが私は来年3月までに就役する予定の護衛艦「いずも」を空母とみなして中国が脅威を感じているのは無理もないと思う。
政府は「いずも」が空母であることを否定している。そもそも攻撃型空母とは、敵地を攻撃する戦闘機を搭載する能力を有していなければならないが、「いずも」はF35など垂直発着可能な戦闘機を艦載できる設計にはなっていない。これが政府の言い分である。
だが「いずも」はヘリコプター5機が同時に離着陸できる巨大甲板を有し、就役すれば海自最大の艦船になる。これだけでも中国は脅威と感じるだろう。
ここで指摘しておきたいのは、日本と中国の造船技術の差があると言うことだ。もっと露骨にいえば造船軍事技術は日米戦争以前から日本は米国と並んで世界でもっとも優れていて、そのノウハウは戦後も引き継がれてきた。問題は日本に大量生産の力が米国に及ばなかったことにある。
ウクライナから廃艦寸前の中古空母を買い付けて、それも十分な戦闘可能な攻撃型空母に為しえない中国の造船軍事技術とは比較して貰っては困る。
戦後、日本海軍が壊滅的な破局を迎えたのは「ミッドウェー海戦で赤城、加賀、蒼龍、飛龍の空母四隻を失った」ことにあると言われた。これは否定しない。だが空母四隻の喪失よりも歴戦の攻撃機搭乗員を失った打撃の方が大きかったことを忘れてはいけない。
開戦当時の日米海軍の航空母艦数を示そう。
日本海軍は9隻(鳳翔、赤城、加賀、龍驤、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、瑞鳳)、米国海軍は7隻(レキシントン、サラトガ、レンジャー、ヨークタウン、エンタープライズ、ワスプ、ホーネット)。建造中は日本が4隻(祥鳳、隼鷹、飛鷹、大鳳)、米国が5隻。注目すべきは日米ともに商船改装空母に力入れいる点である。大型商船を建造し、いざ戦時となれば航空母艦に改装する造船軍事技術を開戦以前から持っていたことになる。
ただミッドウェーで日本海軍が主力空母4隻の一挙に喪失したことは改装空母4隻で埋められる穴ではないのは言うまでもない。とはいえ、艦隊派の海軍首脳には建造中の4隻を含めて13隻の空母のうち4隻を失ってもなお9隻の空母艦隊を保有しているという意識が強かった。
米側も空母ヨークタウンを喪失、空母ホーネット、空母エンタープライズも損害を受けている。
ミッドウェー海戦の敗北で日本海軍が空母機動部隊の編成に着手したのは間違いない。団子型の空母艦隊では相手空母からの攻撃機の空からの攻撃で脆弱さを露呈した。改装艦として信濃、千歳、千代田の3隻が急遽計画された。しかし、日本の造船所や海軍工廠の生産能力には限界があって、多くは計画倒れとなったが、米国は「真珠湾ショック」で全産業を戦時型の大量生産方式に切り替え、開戦後一年の間に17隻の空母を竣工させている。この一年間で日本の空母竣工はゼロ。この違いが日米戦争の帰趨を決めたといえる。
造船軍事技術では日米対等であっても、戦時生産力では圧倒的に差がある日米だったから戦争が長引けば日本の敗北は最初から分かっていた。サイパンを攻略した米国は、B29による日本本土爆撃に着手し、最初は工業地帯を壊滅させ、ついで日本の戦意を削ぐために都市住民に対する無差別爆撃を強化した。
こんな戦争を何故したのだろうか。日本国民は身にしみて悟っている。
いまの日本の防衛費は戦前の日本の七分の一に過ぎない。日本の防衛に必要な予算であって、中国を攻撃する意図などはサラサラない。だが中国が尖閣諸島を攻撃し、占領するのなら「窮鼠猫を噛む – 故事百選」ことになるだろう。
米国と三年余にわたって戦った日本の潜在力を甘く見て貰っては困る。
杜父魚文庫
17424 護衛艦「いずも」の三月就役で思う 古澤襄

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