17510 中国公安部の「キツネ狩り」作戦で海外逃亡犯、数百名を逮捕    宮崎正弘

■豪政府、中国と合同捜査に乗り出したうえ、「投資移民」制限へ
豪政府は「投資移民」の条件を見直し、従来の5000万円以上の住宅購入者に「永住権」付与という安易な条項を厳格化する。
すなわち。今後は15億円以上の住宅投資者に対して「一年後」に永住権を与える法律に改正する(『シドニー・モーニング・ヘラルド』、10月20日)。
 http://www.smh.com.au/world/australia-set-to-seize-assets-of-corrupt-chinese-officials-20141020-118kl3.html
これは豪における不動産バブルへの不満が国民から沸きあがり(一般庶民は手が出ない高値になった)、しかも海外からの不動産投資の九割が中国人であることが最大の理由という。
すでにカナダでは五月から投資移民プログラムの審査を厳格化したため、中国人46000名の移民申請が宙に浮いている。
あまつさえ経済犯罪の逃亡先にアメリカ、カナダと並んで豪が中国人の逃げ込む目的地となっている事態を重視し、豪連邦警察は中国公安部と合同の捜査を近く開始する。
すでに豪に潜伏していると見られる前国家電力公司社長や、収賄容疑の吉林省前省長、雲南省前書記ら七名の重要手配者が含まれる。かれらはすでに「オーストラリア国籍」であり、自国民保護という建前からも、これまでは中国の逮捕要請にこたえなかったのだ。
かれらは10億ドルを持ち逃げした。「こうした合同捜査で海外逃亡犯を厳格に逮捕する重大な岐路となるだろう」と中国外交部スポークスマンの洪磊が記者会見した(10月14日)。
中国政府は公式的に「これまで海外逃亡した中国共産党幹部は16000名から18000名。持ち逃げされた金額は8000億人民元としてきたが、ワシントンのシンクタンクGFI(グローバル・ファイナンス・インタグリティ)の調査では「3兆7900億ドル」(邦貨換算417兆円弱)である。
習近平政権の反腐敗キャンペーンにより、2014年7月から中国公安部は『キツネ狩り』作戦を開始した(これを『猟狐2014』作戦と名付けた)。
既に7月20日から10月10日まで128人の逃亡犯を海外で逮捕したが、潜伏先はカンボジア、タイ、マレーシアが多く、米、カナダなど『先進国』での逮捕は少ない。
 
ちなみに過去2008年から2013年までに、54ヶ国で700名前後の逃亡犯を拘束、中国に送還された。
米国やカナダが中国人犯罪者の引き渡しに消極的な理由は、帰国後、ろくな裁判も受けられないのは人道上の問題があるからだ。それゆえに先進国では犯人の引き渡しを拒む例が多かった。
また巨額をちょろまかして資金洗浄したうえで、共産党幹部はアメリカとカナダへ逃げ込み、偽造したパスポートなどで別人として暮らしているケースもある。高官であればあるほど、カンボジアなど開発途上国へは逃げ込まない。
「現在、重要な経済犯罪者およそ150名が米国に潜伏している」(『チャイナ・ディリー』、8月11日付け)。
米国では人道的配慮ならびに政治亡命申請がなされた場合、中国へ送還することは稀であり、その方面の弁護士も夥しい。
▼雑魚ばかりじゃないか。かの「大虎」への捜査メスはどうしたのか
中国大富豪トップはアリババの馬雲である。このアリババの出現に世界のマスコミが注目する(拙著『中国を動かす百人』、双葉社参照)。
アリババは果たして健全なベンチャー・ビジネスなのか?
創業者の馬雲は通販ビジネス成功の勢いに乗って盛んにM&A(企業合併、買収)作戦を展開しており、すでに映画製作、百貨店、サッカー・チームにまで経営の輪を広げた。馬雲は世界的なビジネス・リーダーとなり、神話も生まれた。
そしてアリババは中国共産党と関係の深い「CITIC 21CN(中信21世紀)という企業を買収した。この会社の実態は太子党の金儲け企業である。
問題はアリババの面妖な株主たちである。
大株主に名を連ねる面々たるや、殆どが太子党だからだ。香港のマスコミがつたえた株主には温家宝前首相の息子、温雲松。江沢民の孫、江志成。賀国強の息子、賀錦雷。陳雲の息子、陳元。劉雲山の息子、劉楽飛。王震の長男、王軍、そして張震の息子、張連陽と娘の陳暁顛。。。。。
これら太子党がアリババ上場で濡れ手に粟の儲けだけでも10億ドル以上という。
とくに注目されるのが江沢民の初孫、江志成である。かれは米国留学後、香港へあらわれて「博裕ファンド」を設立した。この江沢民の孫ファンドがアリババの相当数の株主で同時に馬雲のすすめるベンチャー・ビジネスにも出資している。 
習近平の反腐敗キャンペーンが最終的に狙うのは江沢民率いる「上海派」である。国民の怨嗟の的は江沢民派がごっそりと利権を寡占する、その腐臭にみちた利権構造である。
▼上海派、最後の牙城つぶしに本気で乗り出すのか
反腐敗キャンペーンで血祭りにされた薄煕来や周永康らは「中虎」でしかなく、海外で逮捕した犯人たちは「雑魚」ばかり。
大物中の大物、つまり江沢民、曽慶紅らへの捜査メスはいつになるのか、という究極の権力闘争の行方に庶民の関心が集まる。
表向きの習近平執行部と江沢民ら上海派との対立は、小学校教科書の内容をめぐるもので、上海の教科書から中国の故事詩編を削除したことが習近平の怒りを買った。そして上海特別区に鳴り物入りで設営された『上海自由貿易試験区』の副主任、戴海波(江沢民の次男の執事役。上海市党委副秘書長)を免職し、韓正・上海市党委員会書記(前上海市長)に教科書の原本復帰を迫った。韓正も江沢民直系である。
だが表向きの政争はともかくとして、舞台裏の暗闘は上海派がにぎって絶対に手放さない通信と金融の巨大利権をもぎ取ることである。
習近平は、これまでに鉄道部を解体し、軍と江沢民派が持っていた、新幹線だけでも十兆円という鉄道利権を取り上げ、薄煕来逮捕によりライバルを蹴落とし、周永康の拘束で『石油派』から利権を取り上げた。
スマホ、インターネットなど通信の利権は江沢民の長男、江綿恒が握っている。この長男の江綿恒は嘗て陳良宇(元上海市書記)とつるんで逮捕されたデベロッパーの周正毅とも異様な関係を持っていた。
 
次男の江綿康は上海の城郷建設委員会、交通委員会ならびにそれらの下部組織のシンクタンクなど巨大な「利益空間」を泳ぎ渡り、土木開発、建設ビジネスの黒幕として知られる。
江綿康は2002年から07年にかけてのシーメンスの車両輸入ビジネスにも深入りした。このプロジェクトは総額十億ドル、同時期に江綿康は頻繁に米国入りしており、賄賂は外国で受け取り、在外資産として米国の秘匿しているのではないか等と囁かれている。
中国の闇の奧に広がる本当の闇が解明されることは、たぶんないだろう。
反腐敗キャンペーンの中枢で指揮を執る王岐山はしばしば雲隠れするが、ひとつには暗殺から身を守るため、しかし真の目的は捜査に秘密が必要であり、九月にはひそかに上海入りし江沢民一族の周辺に捜査の手を広げたと伝えられる。
杜父魚文庫

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