■景気腰折れ懸念
[東京 26日 ロイター]安倍晋三首相が年内に判断する消費税率10%への引き上げをめぐり、首相周辺で1年半程度の増税延期が望ましいとの意見が優勢になっていることが明らかになった。8%に引き上げ後の消費回復が思わしくなく、さらに増税すれば、実質所得の目減りが一段と大きくなり、消費を起点に景気が腰折れて税収が増えない事態を警戒している。
10月に公表された米為替報告書でも同様の指摘を受けていることも視野に入っているもようだ。
「3%引き上げてわずか1年半後に、さらに増税する国が世界のどこにあるのだろうか」──。首相周辺では、消費税率の連続引き上げに対する警戒感が、このところ急速に台頭している。
今年4月の増税後、デフレ脱却を狙った日銀の量的、質的金融緩和(QQE)の効果もあり、物価の上昇幅が前年比で3%台となり、賃金の上昇が追いつかず、実質賃金の目減りが続いている。
もし、来年10月に再増税すれば、目減りの割来が今よりも大きくなり、所得増が消費を増やし、税収も押し上げるという景気の好循環が失われ、アベノミクスへの評価が一気に低下しかねないと懸念しているもようだ。
首相周辺の1人は「税収が上がり、経済の循環で回していかないといけない。私は引き上げに慎重だ」と述べている。
消費再増税をめぐっては政府・与党内でも意見が分かれており、麻生太郎副総理兼財務・金融担当相や谷垣禎一自民党幹事長、同党税調幹部らは、増税を延期すれば、海外投資家から財政再建が遠のくとみられ、長期金利が急上昇しかねない、と懸念する。
一方、首相周辺では、増税を延期しても、1年半程度であれば、財政への信認は維持され、日銀のQQE効果もあって長期金利が上昇する可能性は低いとみている意見が多い。
また、今月15日に公表された米財務省の為替報告書が微妙な波紋を政府部内に投げかけている。「財政再建ペースは慎重に策定することが重要」と指摘し、金融政策は「行き過ぎた財政再建を穴埋めできず、構造改革の代替にもならない」との表現が盛り込まれた。
消費税について具体的な言及はなかったため、財務省関係者の間では「来年10月の消費増税ではなく、その先の再増税などについて慎重に、との意味だと思われる」(幹部)との解釈も聞かれる。
だが、ルー米財務長官は10日、国際通貨基金(IMF)の諮問機関である国際通貨金融委員会(IMFC)開催を前に声明を発表。日本経済について「今年と来年は弱い状態が続く」と指摘し、「財政再建のペースを慎重に調整し、成長を促す構造改革を実行する必要がある」と主張した。
市場関係者の一部では、米国が金融政策の出口に向かうなかで、新興国からの資金流出や、中国・欧州経済の不安定化を防ぐため、ドイツに財政出動を強く求めており、同様の趣旨から日本に対しても財政引き締めである消費増税を拙速に進めてほしくないとの意向だと解釈されている。
首相周辺では、米財務省が消費増税による景気下振れを懸念するなら、懸念が現実化するがい然性が高くなり、より警戒を強める必要もあるのではないか、との見方もあるようだ。
現時点では、政府・与党内で法律通りの再増税派が多数を占めているとみられる。再増税を支持する立場からは、消費は8月を底にゆるやかに回復しつつあり、来年再増税に備え、財政出動で家計を支援すれば、景気の腰折れは防げるとの見通しが出ている。
また、増税延期は日本国債の格下げにつながりかねないリスクを抱えている。その場合、長期金利が上昇すれば、対応は難しいとの見解を、日銀の黒田東彦総裁は何度も表明し、増税実施を支持している。
これに対し、首相の経済アドバイザーで内閣官房参与の本田悦朗・静岡県立大学教授は「今月はじめニューヨークやロンドンで欧米の約70社の機関投資家と面談・電話会談したが、6-7割の投資家は、消費税率の10%への引き上げを1年半程度延期しても全く心配ないとの意見だった」と、金利上昇懸念を一蹴する。
果たして、安倍首相が周辺の意見を重視して、財務省・日銀などの増税実施論を押し切り、1年半程度の延期を決断するのかどうか。その決断は、日本経済や市場動向だけでなく、世界経済の行方にも大きな影響を与えそうだ。(ロイター)
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17567 首相周辺で消費増税延期が優勢 古澤襄

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