■年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と連携
11月1日(ブルームバーグ)日本銀行が市場の意表を付いて行った追加緩和。その真の理由について、エコノミストの間では、安倍首相の消費増税の決定を後押しすることや、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の新資産構成との連携を指摘する声が上がっている。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは決定後のリポートで、今回の決定の背景について「黒田東彦総裁にとっては、インフレ目標達成の重要性もさることながら、消費増税を可能とする政治的環境を整える、ということも同時に重視していたのだと思われる。そのように考えるのが分かりやすい」と指摘。
安倍政権が重視する株価を押し上げ、消費増税を後押しする手段として、「GPIFが株式や外貨建て資産などリスク資産のウエートを引き上げるのに合わせ、ウエートを引き下げる国債を日銀が吸収すべく、マネタリーベース目標を引き上げること」が狙いだったと指摘。長期国債の増額は「GPIFの国債ウエートの引き下げから算出される30兆円と合致する。偶然ではないのだろう」という。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストも「日銀の追加緩和は、政府が12月に消費税増を最終判断するときの支援を行う意図があるのだろう」と指摘。ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストも「GPIFのポートフォリオ変更の公表と日銀の追加緩和実施が同日であったことは単なる偶然とは考え難い」という。
日銀はこの日の金融政策決定会合で、追加緩和を5対4で決めた。長期国債の買い入れを 「保有残高が年間約80兆円に相当するペース」に増やすほか、指数連動型上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の買い入れも「それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペース」に拡大した。
■量的・質的金融緩和の効果への疑問も
シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「うがった見方をすれば、昨年4月の量的・質的金融緩和が所期の効果を及ぼしているという評価が難しくなったことが、今回の追加緩和の背景と考えられよう」と指摘する。
黒田総裁は31日の会見で、「量的・質的金融緩和の導入以降、1年半が経過したが、これまで所期の効果を発揮している」と述べた。しかし、経済・物価情勢の展望(展望リポート)で新たに示した2014年度の見通しは、実質成長率が0.5%増、生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI、増税の影響除く)は1.2%上昇といずれも下方修正された。
日銀が13年1月、白川方明前総裁の下で最後に示した14年度見通しは、実質成長率が0.8%増、コアCPIは0.9%上昇だった。日銀が今回新たに示した見通しは、物価は辛うじて当時を上回っているが、成長率は4回連続の下方修正で、ついに当時の見通しすら下回った。
■神通力は今後減衰
会合と同日に発表された9月のコアCPI(消費増税の影響除く)は1.0%上昇と、4月の1.5%をピークとして徐々に減速している。馬場氏は「今回の追加緩和などにより、さらに大きな円安化が継続的に進まない限りは、2015年度を中心とする期間に安定的に2%に達するというシナリオの実現は難しい」と指摘する。
サプライズの追加緩和を受けて、日経平均株価 は急騰、7年ぶりの高値を更新した。しかし、三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは「アナウンスメント効果だけを取り出しても力不足」と指摘。「柳の下にドジョウがそう何匹もいるわけではなく、異次元緩和の神通力は今後減衰していく」と予想する。
村嶋氏も「景気や物価へのインパクトが限定的なものにとどまるとすれば、今回の決定の金融市場へのインパクトも意外に短命に終わる可能性が否定できなくなる」と指摘。「インフレ率は今後も日銀の見通しを下回る可能性が高く、その場合は、今回と同様に、追加緩和を余儀なくされる可能性もあろう」という。
■ずるずる逐次投入への道
日銀が展望リポートで示した15年度のコアCPIは1.7%上昇と、量的・質的金融緩和を導入した当時から示してきた1.9%上昇から下方修正した。一方で、「見通し期間の中盤頃、すなわち15年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い」との見通しは維持した。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「数字だけを素直に読み解くと、物価目標達成の期限を事実上延期することになる」と指摘。「金融政策の効果が乏しいことを認めず、達成期限をあいまい化するなら、逐次投入路線に陥りやすい。物価目標が厳しそうであれば、『物価見通しを引き下げて追加緩和』がパターン化する見込みだ。量的・質的金融緩和の拡大をずるずる続けやすいだろう」としている。(ブルームバーグ)
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