17653 米中間選挙 今後の内政や外交は    古澤襄

■中国の海洋進出に対し抑止力の強化を求める声
アメリカ議会の中間選挙は、野党・共和党が下院に加えて上院でも8年ぶりに多数派になることが確実になりました。選挙結果はアメリカの内政や外交にどのような影響を及ぼすと考えられるのか、まとめました。
内政は共和党は2年後の大統領選挙を見据えて、オバマ政権に対して一段と攻勢を強めることも予想されます。
具体的にはオバマ大統領の看板政策の1つで事実上の国民皆保険を目指す医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」について、共和党は財政支出の増大につながるなどとして反対してきたため、今後、見直しを求める法案を可決させようとするものとみられます。
また、民主党以上に財政規律を重視して社会保障費の削減を目指す共和党の主張は、財政運営にも波乱をもたらす可能性があります。アメリカではことし10月から2015年度が始まっていますが、民主党と共和党は予算の協議を先送りしています。
このため、来月中旬までの暫定予算を組んでいますが、そのあとの歳出をどうするか期限までに決める必要があります。
また、来年の3月中旬には、財政赤字の穴埋めのためにアメリカ政府が追加の借金をできるよう法律で債務の上限を引き上げなければ、アメリカ政府が債務不履行に陥りかねない事態が再び訪れます。
こうした問題を巡って共和党がみずからの主張を強めれば、去年のように政府機関の一部閉鎖を引き起こすなど混乱が起きかねず、世界経済に影響が出るおそれもあります。
一方で、景気や金融市場の足を引っ張りかねない議会の対立は国民から厳しい批判を浴びているだけに、共和党がこれまでの強硬な路線を修正し、民主党に歩み寄るのかどうかも注目されます。
外交・安全保障は外交・安全保障政策は政権の権限が強い分野のため、他国への軍事介入に慎重なオバマ政権の姿勢が大幅に変わる可能性は低いとみられます。
ただ、議会の外交委員会や軍事委員会での審議を主導する委員長は、共和党から選ばれます。
共和党の有力議員からは、イスラム過激派組織「イスラム国」に対する軍事作戦の強化を求める意見も出ていることから、今後、こうした声が議会で強まることが予想されます。
また、オバマ大統領が打ち出したアジア重視政策や、日米関係については基本路線に変更はないとみられますが、共和党の有力上院議員の中には、中国の海洋進出に対し抑止力の強化を求める声や、日本に安全保障面でもより積極的な国際貢献を求める声があり、こうした意見が議会で強まる可能性もあります。
一方、オバマ大統領は残り2年の任期中にみずからの実績作りのため、外交に力を入れるという見方もあります。
いずれにしても、上下両院ともに共和党が多数派となれば、政権と議会のいわゆる「ねじれ」の状態が強まることは確実で、政治の機能不全がさらに進めば、国際社会でのアメリカの指導力が低下し国際情勢に影響を与える懸念もあります。

TPPはオバマ政権が推進するTPP=環太平洋パートナーシップ協定に影響が出る可能性もあります。
TPPなど通商協定は議会で承認を受ける必要があるため、議会の意向が強く働くとされています。TPPなどの自由貿易協定を巡って、民主党内では雇用が失われるなどとして反対意見が強く、通商交渉に関する大統領の権限を強め、他国との間で思い切った交渉を可能にする「大統領貿易促進権限」と言われる法案の審議は進んでいませんでした。
これに対し、共和党は自由貿易を推進する立場のため、法案審議が加速し、オバマ政権にとってむしろプラスに働く可能性があると指摘されています。
通商交渉に詳しいピーターソン国際経済研究所のジェフリー・ショット氏は「共和党が議会上院の多数を握れば大統領の権限を強める法案は来年早々に成立する可能性が高まる。成立すればオバマ大統領がTPP協定の最終合意に踏み切るきっかけになるだろう」と話しています。
一方で、共和党が対立するオバマ政権にどこまで協力するかは不透明だという見方もあります。
また、共和党は関税の撤廃など高いレベルの自由化を求めるのが基本姿勢のため、農産物の関税の取り扱いなどを巡る日本との協議に、より厳しい態度で臨むようオバマ政権に迫る声が高まるという指摘も出ています。(NHK)
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