■維新・橋下氏は「このままなら野党は惨敗…」
早期の衆院解散に備え、与野党に臨戦態勢を整える動きが出てきた。安倍晋三首相が来年10月の消費税率再引き上げを見送った上で、年内にも解散に踏み切るとの見方が広がっているためだ。自民党執行部は選挙準備を急ぐ方針。一方、民主党など野党は候補者調整を進める構えを見せている。(水内茂幸、酒井充)
「仮に前へ進むということになれば、大義名分は何かということとスケジュール管理が必要だ」
10日夕に国会内で開かれた自民党役員会。二階俊博総務会長が「解散について議論になっているが、どういう状況なのか報告してほしい」と説明を求めると、谷垣禎一幹事長はそう答えた。
茂木敏充選対委員長は同日、那覇市内で記者団に「常在戦場の気持ちで日々の活動をするのは極めて重要だ。いつ解散があってもいいように選挙準備を推進する。空白区を埋める作業や公認調整はしっかり進めている」と語った。小野寺五典前防衛相も9日のフジテレビ番組で「ポスター作成など準備をしっかり整えたい」と語るなど党内は浮足立ちつつある。
一連の発言から党執行部が解散を視野に入れ始めたのは間違いない。
次期衆院選から選挙区は「一票の格差」を是正する「0増5減」の影響で295選挙区になるが、自民党は10日現在で278人の公認をすでに内定している。候補者調整に苦闘している野党とは対照的だといえる。首相は9日、羽田空港で記者団に「解散は全く考えていない」ときっぱりと否定したが、もはや解散風はおさまりそうもない。
急に解散風が強まったのは、7~9月期の国内総生産(GDP)が「想像以上に悪い」(政府関係者)との観測が広がったことが大きい。安倍晋三首相は、17日に発表予定のGDP速報値を受け、消費税率10%への再引き上げの適否を判断する根拠にする意向を示してきただけに、「首相は再増税の先送りを決断する」との見方が強まったわけだ。先送りするならば首相が「アベノミクスの是非」を問うて解散に踏み切る可能性ががぜん高まる。
早期解散は公明党にとっても「まずまずの日程」(幹部)だという。
山口那津男代表は10日、記者団に適切な解散時期を問われ「われわれの方から言及は控えたい」と言葉を濁したが、これまで想定された解散スケジュールよりもベターなのは間違いない。公明党は支持母体の創価学会が選挙態勢を整える都合上、来年4月の統一地方選や平成28年7月の参院選との同日選は避けたい。当初本命視された来年9月の自民党総裁選前後の解散も「通常国会で集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制関連法案が成立した直後は避けたい」(公明党幹部)との思いがある。
首相周辺はこう打ち明けた。「野党の選挙態勢が整わないうちに衆院選に挑んだ方が議席減の幅が少なくて済み、長期政権への基礎ができる…」。解散風は強まるばかりとなっている。
自民党の「1強多弱」にあえぐ野党は与党で強まりだした解散風をどう受け取っているのか。
民主党の海江田万里代表は「正面から受けて立つ」と胸を張る。民主党は、他の野党より相対的に選挙基盤がしっかりしているだけに議席増の可能性があることが強気の背景にあるようだ。
ただ、与党に対抗するための野党間の候補者調整が難航するのは必至だ。
民主党は10月から公認内定者のいる選挙区を中心に党独自の世論調査を実施し、候補者擁立の最終判断や維新など他の野党との選挙協力の材料とする考え。近く本人に結果を通知する予定で、海江田氏は10日の記者会見で「新人の公認候補の決定を急ぐ」と表明した。解散・衆院選となった場合、「アベノミクスは失敗ではないかと言っていく」とも語った。
100人以上の擁立に向けて7日に公募を開始した維新の橋下徹共同代表(大阪市長)は10日、大阪市役所で記者団に、政府が消費税再増税を先送りすると判断した場合について「解散・総選挙で信を問わないといけない」と語った。
ただ、橋下氏は「大阪都構想」に反対し、労組の支援を受ける民主党に不信感を抱いており、野党間の選挙協力には懐疑的だ。10日も「今のままなら野党の惨敗だ。むしろ自民党は議席数を伸ばすかもしれない」と危機感をあらわにした。
民主党の公認内定者は約130人、維新は約65人にとどまる。すでに両党の選挙担当者は非公式に接触している。「公募を始めた維新は他の野党候補がいない選挙区への擁立が中心になる」(民主党幹部)とみられる。
ただ、選挙協力を模索する民主、維新、次世代、みんな、生活の野党5党でみた場合、候補予定者が競合する選挙区は50以上になり、野党系候補が存在しない「空白区」も90選挙区以上となる。
しかも選挙協力の前提となる統一政策作りは手が着いていない。そう簡単に反自民で一致結束し、選挙区を譲り合うとは考えにくい。(産経)
杜父魚文庫
17704 臨戦態勢を敷き始めた自民党「常在戦場だ!」 古澤襄

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