【ブリュッセル】西側観測筋は12日、ロシアはここ数日、戦車や榴弾砲などの武器を兵士とともにウクライナ東部に送り込んでいるとし、同地域の親ロシア派支配を長期的に固定化する狙いとみられると述べた。
兵士や武器を新たに送り込んでいることで同地域のロシアのプレゼンスは急激に高まり、9月初めにベラルーシのミンスクで調印された停戦協定が再びおびやかされることになる。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「これは停戦にとって深刻な脅威だ」とし、「ウクライナ東部で親ロ派が支配地域を拡大しようとするいかなる試みも、ミンスク協定へのあからさまな違反になる」と述べた。
加えて、同地域にいる国際監視団は、ロシアの支援を受けた勢力が支配地を拡大しており、また監視団の無人偵察機が砲撃されたほか、故障を起こしていると述べている。
ウクライナと親ロ派が9月5日に停戦協定を―ロシアの支援下で―結んで以来、双方は協定違反を互いに非難し合っている。同日以降、戦闘員と一般市民の死者数は数百人に上っている。
ウクライナ東部では親ロ派が独自の選挙を実施してから緊張が高まっており、前線に沿って戦闘が増えている。西側の当局者は、ロシアは影響力を維持するためにウクライナ東部を永久に不安定な「凍結紛争」地域にすることをもくろんでいるのではないか、と恐れている。
ただ、双方ともに停戦協定が無効になったと公に宣言することを避けようとしている。ウクライナにとって戦争の再開は優勢なロシア軍への確実な敗北とみなされ、ロシアは親ロ派の攻勢を認めたり、支援したりすることで、新たな西側の経済制裁を招くリスクを冒したくないと考えているようだ。
ドイツのメルケル首相は12日、ポロシェンコ・ウクライナ大統領との電話会談のあと、停戦協定を弱体化させているとロシアを批判した。同首相は11日、ロシアへの制裁を強化する計画は当面ないと述べていた。
しかし、シュタインマイアー独外相は、最近のロシアによる介入は不安だとし、「われわれはこの紛争がどうなるのかはっきりと言えない状況に再び舞い戻った。われわれはいったん乗り越えてきた状況に後戻りしているのではないだろうか」と語った。
NATOのブリードラブ最高司令官は12日、訪問先のブルガリアで、ロシア・ウクライナ国境は穴だらけで兵士や武器のウクライナへの流入が容易だと述べるとともに、「現在どの程度のロシア兵や武器が入っているのか正確に把握できていない」と話した。
同最高司令官は、ロシアは親ロ派の支配地をまとめて管理しやすくすることを狙っているのかもしれないとし、「ロシア軍は親ロ派の支配地をまとめて一つにし、長期的に手放さないようにするというのがわれわれの見方だ」と語った。
米国防総省のウォレン報道部長は「ロシア軍はウクライナの中や周辺で何カ月も展開している」と語るとともに、「われわれは、安定に寄与し、不安定をもたらさないように頻繁にロシアに呼び掛けている。この呼び掛けは続ける」と述べた。
停戦の順守状況の監視に当たっている欧州安保協力機構(OSCE)は、親ロ派は過去数週間に支配地を拡大しており、停戦ラインを西側に数十キロメートル押し出しているところもあると指摘した。OSCEのザニエル事務総長はブリュッセルで、監視用の無人機が砲撃されたと述べた。同事務総長は「ロシアからの武器の流入はよりおおっぴらな紛争につながる可能性がある」としている。
OSCEが11日に発表したところによると、榴弾砲やロケットランチャーを牽引した43台の軍用トラックがドネツク州の中央を目指して進んでいった。また、軍服と見られる服装の665人の男女がこの1週間に国境を行き来したとし、「この数字はこれまでで最高だ」と述べた。OSCEは、親ロ派による支配地の拡大は顕著だが、それほど広大ではないとしている。親ロ派は都市部を占領するというより、ウクライナの検問所を占拠し、停戦ラインを西に動かせるようにしていると指摘した。
OSCEは10月末から無人偵察機を使っている。うち1機は11月2日にマリウポリの東17キロの所で対空砲火を受けたが、被害はなかった。しかしOSCEは数日前、主としてその情報システムが妨害を受けたことから運用を停止したという。関係者によると、この妨害は非常に高度な技術を用いたものだったという。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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