17739 世界中で危機多発した2014年、西側の政府と軍は「臨界点」    古澤襄

[ワシントン 12日 ロイター]ウクライナ危機をめぐるロシアとの対立に始まり、エボラ出血熱の封じ込めやイスラム過激派組織「イスラム国」に対する軍事行動など、2014年は西側当局者にとって、近年まれに見る規模の危機に追われた年となった。
現役や元当局者らによると、結果的に米英や欧州の政府内では、前例があまりないほどの限界状態が続いているという。それに伴い、他の危機の兆候が見落とされるリスクがある。
たとえ当局者らが何をすべきか分かっていても、度重なる政府予算の削減は、軍隊など必要なリソースを十分に投入できなくなることを意味する。

オバマ米大統領は、イラクやアフガニスタンでの泥沼状態から抜け出すことを望んで政権の座に就いた。しかし、米国主導の大規模な軍事介入の時代は終わりを迎えたかもしれないが、各地で危機が同時多発する時代が幕開けしただけかもしれない。
米陸軍のオディエルノ参謀総長は先月、ワシントンでの会合で「世界がわれわれの目の前で変わりつつある」と述べた。
同参謀総長は、陸軍兵力を過去10年のピークだった57万人から45万人に削減する計画は、もはや実行可能ではないと指摘。最低ラインとして49万人は維持すべきだと述べた。
ウクライナをめぐるロシアの動きも、欧州の防衛予算削減に疑問を投げかけた。
オディエルノ参謀総長は「将来的な武力衝突の数や期間や場所や規模、情勢安定後に実施する作戦の必要性に関して誤算があった」とし、「こうした計算ミスは軍事リスクの増大に直結する」と語った。
また当局者らは、他にもさまざまな問題が重なったことで、外交関係者の緊張は限界に達していると指摘する。
ナイジェリアの治安悪化やマレーシア航空機の撃墜、香港の民主化要求デモ、北朝鮮政権内の不穏な動き、スコットランド独立の是非を問う住民投票、中国と周辺国による南シナ海での領有権争いは、いずれも新たな情勢分析と緊急対策の策定が必要だった。
2014年は人道危機も増えた。エボラ出血熱のほか、イラク、シリア、南スーダン、中央アフリカでの情勢悪化など、世界保健機関(WHO)は初めて、5つの危機に同時に対処しなくてはならなかった。
ある英当局者は匿名を条件に「誰もが疲れ切っている」と語った。
<過密日程>
危機対応の最前線に立たされているのは、特に中東を担当する外交関係者だろう。イラクやシリアでは「イスラム国」が台頭し、イスラエルはガザに地上侵攻し、イランの核交渉は思うように進まず、リビアやイエメンでも同時期に危機が発生した。
一部の当局者は、危機的状況が発生するたびに新たな任務を割り当てられた。イエメンの担当者がロシア問題に回されたこともあったという。リビアなどを担当するチームからは、自分たちが忘れられたも同然との不満の声も聞かれた。
こうした危機多発の年は過去にもあった。1991年にはイラクによるクウェート侵攻とモスクワでのクーデター未遂があった。1994年にはボスニアとソマリアとルワンダで危機が重なった。しかし、2014年は火種の範囲の広さという点では突出している。

必然的に、組織のトップは最も緊張を強いられる。実務者レベルとは違い、トップはすべての大きな脅威について把握しておく必要がある。ヘーゲル米国防長官は過密日程のため、予定していたアジア歴訪を延期した。
政府首脳には政治的責任も伴う。先週には米国で中間選挙が実施され、来年には英国で総選挙が控える。
こうした状況では、単純な時間不足で詳細が置き去りになると専門家は警鐘を鳴らす。
米元大統領次席補佐官(国家安全保障担当)のジム・ジェフリー氏は、イスラム国の台頭など特定の脅威をオバマ大統領に認識してもらうには、「7つある問題の5番目がイスラム国の台頭」というように説明するのではなく、それだけを明確に協議する時間をつくらなくてはならないと語った。(ロイター)
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