17754 解散総選挙へ―安倍政権の正念場    古澤襄

■消費増税をためらう安倍政権
日本でサプライズが続いている。まるでモルヒネ注射を受けてから手術室に入るのを拒否して、治療方法を議論し続ける入院患者のようだ。先週の報道によると、安倍首相は衆議院を解散して12月に総選挙を行い、国民に来年の増税の是非を問う意向を固めた。増税を先送りする可能性は投資家に好意的に受け止められ、株価は23.6%上昇し、為替相場は1ドル=116円を上回る円安となった。
論点となっているのは2度目の消費増税だ。消費税率は今年4月に5%から8%に引き上げられた後、2012年に制定された法律が改正されない限り来年10月に10%となるが、増税がアベノミクスの景気刺激効果を損なっている一定の証拠が見られる。

第1四半期(暦年、以下同)における増税前の消費拡大の反動減の結果、第2四半期の経済成長率は年率マイナス7.1%となった。政府の調査は労働者が10月までの3カ月間で自分たちの分け前が減ったと感じていると示しており、NHKの最近の調査では、回答者の4分の3近くが2度目の増税を延期または中止するべきだと考えている。
安倍首相は、11月17日に発表予定の第3四半期国内総生産(GDP)速報値を確認後に増税の判断をするとしている。2012年制定の法律は「経済状況を好転させることを条件として」(具体的には実質GDP成長率2%程度)増税を可能にしているが、専門家による第3四半期の予想GDP成長率は2.1%で、17日に発表される数値が安倍首相に猶予期間を与える可能性は低い。結果として、安倍首相は早ければ18日にも衆議院の解散総選挙の実施を表明する可能性がある。
地政学の調査会社、テネオ・インテリジェンスのトビアス・ハリス氏は、解散総選挙の意図は有権者の不満を利用したアベノミクスの再活性化だと述べる。選挙では安倍首相率いる自民党が勝利して現状レベルの議席数を維持する可能性が高い。
自民党の10月の支持率は37%で、最大野党である民主党の支持率は6%にすぎない。また、安倍内閣の支持率が下落した場合、民主党が議席数を拡大しなくても、来年9月の自民党総裁選挙に対抗馬が出る可能性がある。しかし、解散総選挙はアベノミクスに勢いとさらに4年の期間を与えることになる。
しかし日和見主義には副作用もある。10月末に日銀は追加的な量的緩和を行い、増税の痛みを軽減させるという2012年に示された日銀の責務を果たした。CLSAで日本担当ストラテジストを務めるニコラス・スミス氏は、安倍首相がこの取り決めにおける自らの役割を果たさない場合、日銀の黒田総裁は大規模な緩和策を縮小する可能性があると述べる。安倍首相は選挙後に黒田総裁を納得させる方法を見つける必要がある。
■今後の投資テーマ
これまでのところ、日本の株式市場は円相場にけん引されてきたため、円ヘッジをしていない投資家はあまり恩恵を受けていない。東証株価指数(TOPIX)が10月半ばの底値から20%の急回復を見せた一方、ドル建て上場投資信託(ETF)のiシェアーズMSCIジャパン(EWJ)の上昇率は6.7%にとどまっている。
しかし選挙における安倍政権の勝利は突破口となるかもしれない。モルガン・スタンレーでは、為替が1ドル=115円近辺にとどまれば、TOPIXは先週の1400から来年9月には1865に上昇し得ると予想している。
注目すべき投資テーマは三つある。2度目の増税が先送りとなった場合、まず恩恵を受けるのは小売業だ。J.フロントリテイリングと三越伊勢丹ホールディングスは先週値上がりし、企業価値は利益のそれぞれ9.8倍と13.2倍と、過去5年平均並みとなっている。
1兆3000億ドル相当の運用資産を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が株式投資を増やす決定をしたため、大和証券グループ本社などの証券会社も恩恵を受ける可能性がある。そしてもちろん、三菱地所など東京の優良物件に大きなエクスポージャーを有する不動産デベロッパーも投資先候補となる。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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