■政府の増税延期に「大人の対応」 ロイターが伝える
[東京 19日 ロイター]日銀の黒田東彦総裁が消費再増税の延期について理解を示し、市場の一部で懸念されていた政府と日銀の齟齬(そご)は回避された。直接的な賛意は示さなかったものの、政府に持続可能な財政構造への取り組みを期待すると述べ、「大人の対応」を示した格好だ。
ただ、増税延期で財政規律には一段と厳しい目が注がれており、この先のマクロ政策には様々な思惑が交錯している。
<政府・日銀の「不協和音」は回避>
安倍首相が17日、10%への消費税引き上げの1年半延期を決めたことにより、市場の関心はこの日の黒田日銀総裁会見に移った。追加金融緩和を決めた際、黒田総裁は消費再増税の実行が前提だとしていたためだ。政府と日銀の間に「溝」ができたとみられれば、アベノミクスの推進に問題ありとして、株安・円高の材料とされる可能性があった。
黒田総裁は19日、金融政策決定会合後の記者会見で、消費税引き上げの延期に関し、追加緩和が間違っていたとか待つべきだったとは考えていないと発言。増税延期に対し、積極的な賛意を示すような発言はなかったものの、消費増税は政府が総合的に判断する政策としたうえで、持続可能な財政構造への取り組みを期待するとした。
市場では、これらの発言に対して、日銀と政府の一体感は失われていないと受け止めている。実際、19日夕方の市場では、日経平均先物<0#JNI>やドル/円JPY=EBSは、株高・円安方向に動いている。
「黒田日銀総裁は消費税率引き上げ延期に対して、うらみがましい発言もせず、大人の対応をしていたという印象だ。日銀と政府の不協和音がみえると、『日本売り』につながりかねなかっただけに、日本の金融市場全体にとってはひと安心だろう」と外為どっとコム総合研究所・調査部長の神田卓也氏は話す。
<増税延期で「財政ファイナンス」には懸念高まる>
ただ、増税延期をめぐる懸念や問題が、これで消えたわけではない。景気のマイナス要素が当面消えたことで、物価目標は達成しやすくなるメリットがある一方、財政再建が後退したとして、今の量的・質的金融緩和政策(QQE)が、政府の支出を中央銀行がカバーする「財政ファイナンス」と受け止められやすくなるためだ。
SMBC日興証券・金融財政アナリストの末澤豪謙氏によると、日銀は昨年度、日本国債の純増額の1.6倍を買い入れた。今年度は1.9倍、この先1年でみれば2.4倍を買い入れる予定だ。現状ペースで利付国債の買入を継続すると、2015年末には日銀の保有シェアは30%台に達し、2018年末には50%を超えてくる可能性があるという。
第一生命経済研究所・副主任エコノミストの藤代宏一氏は、黒田総裁会見について「増税の延期により2016年の経済環境が変わり、インフレ見通しは強気を維持しやすくなった。半面、政府と日銀の政策協定は崩れる可能性もある。来年に消費者物価指数(CPI)が0.5%程度まで低下しても機械的に追加緩和を実施するのかどうか、今後見方が分かれそうだ」との見方を示す。
<複雑なアベノミクスの選択肢>
一方、前日の安倍首相の解散会見からは、リフレ政策の限界を安倍首相が感じているのではないかとの声も市場では漏れてくる。
三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は「安倍首相は景気を押し上げることで物価も引き上げるとのロジックを示した。いわゆる貨幣数量説、リフレ論とはやや距離を置いた印象を受ける。貨幣をいくら増やしても経済は良くならないと感じ始めているのではないか」と述べる。
ドル/円は約7年ぶりの117円台半ばまで円安が進行。円安のメリットは大きいが、デメリットにも政治的に配慮しなければならない。今年4月の消費増税の影響が大きいとはいえ、景気は思うように回復していない。「問題や副作用を横に置いて、このまま、今のアベノミクスを推進・拡大していくのがいいのか。自民党にとっても再考すべき時ではないか」(外資系証券エコノミスト)との声もある。
政策の是非を問うという意味で2005年の「郵政解散」と似ていると言われる今回の選挙だが、郵政民営化の賛否という二者択一だった前回と異なり、今回の「アベノミクス」には様々な政策が入り組んでいる。有権者だけでなく、市場参加者も投資行動を決定する上で複雑な選択を強いられることになりそうだ。(ロイター)
杜父魚文庫
17793 市場は黒田日銀総裁の記者会見に安ど 古澤襄

コメント
ロイターはいい記事を書きますね。