■田中秀征氏に聞く
安倍晋三首相が仕掛けた師走の政治決戦。「首相の大義が曖昧でも、有権者の側の大義は明確だ」。元経済企画庁長官の田中秀征氏(74)はインタビューに応じ、その意義を強調した。
—唐突ともいえる衆院解散・総選挙。背景をどう読むか。
「一つには首相の政権戦略があるんだろう。原発再稼働、集団的自衛権行使容認の具体化など、それぞれ支持率が10%ずつ落ちていくほどの問題が控えている。このままだと、来年秋の自民党総裁選で、落ち込んだ内閣支持率で再選を目指すことになりかねないと考えたのだろう」
「もう一つは、来年10月の消費税再増税を目指す財務省と自民党増税派の圧力をかわすには、他に手はないと思ったのだろう。首相も菅義偉官房長官も財務省に取り込まれていない珍しい政治家。歴代政権で安倍、菅コンビの官邸は、正面から財務省の圧力に抗した初めての例ではないか。その点は評価する」
◇集団自衛、原発も争点
—今回の解散を野党は「大義がない」と批判している。
「僕がもし野党だったら、大歓迎する。選挙態勢が整っているかどうかは別にして、消費税増税、原発再稼働、集団的自衛権、特定秘密保護法は、いずれも落着していない途上の重要問題。これらについて信を問う機会となるのだから、むしろ歓迎すべきだ」
「一方、首相にとっては、やぶ蛇になりかねない。集団的自衛権行使などとてつもなく大きな問題について国民の判断を求めないでいて、消費税についてだけ判断を求めるのは全く説得力がない。この点は総選挙で徹底的に追及されるだろう」
—最大の争点は。
「アベノミクスの是非だ。7〜9月期の国内総生産(GDP)が年率換算でプラス2%程度だったら、安倍自民党圧勝の可能性が高かった。
しかし、実際はマイナス1.6%。これは大変な衝撃だ。アベノミクスを始めてから、日本では五つの格差が広がった。輸出産業と内需産業の格差、次いで製造業と非製造業、さらに大企業と中小企業、大都市と地方、そして富裕層と低所得層の格差だ。『今後景気は良くなる』と言われても、有権者は信じられないだろう。要するに『不合格』の通知をもらってから戦うようなもの。首相にとっては悲壮感漂う戦いになると思う」
—GDPマイナス1.6%は首相にも誤算だったと。
「解散を明言した18日の記者会見も、自信たっぷりとは見えなかった。頂点に立つ首相、しかも解散を決断した人は、それこそ毛穴まで使って政治状況を読み取ろうとするが、『(見込みとは)ちょっと違うぞ』という感じがあった」
◇「大波乱」の可能性も
—とはいえ、迷走続きだった民主党政権当時を思い起こすと、有権者も判断に困るのでは。
「有権者が、『新政権をつくる』ことよりも、まずは『現政権を信任するかどうか』の判断を優先する。今進もうとしている道が良いのかどうか。『ストップ・ザ安倍』という形の選挙になれば、大きな波乱が起きる可能性がある」。(時事・米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
17814 解散「有権者の側に大義」 古澤襄

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