ヘーゲル辞任はオバマ大統領が「事実上の更迭」(米紙ニューヨーク・タイムズ)つまり首を斬ったとされている。だが、ここに至るホワイトハウスと国防総省高官の米戦略をめぐるあつれきをみると、単にオバマVSヘーゲルの対立劇で片づけれないものがある。ことは米アジア戦略で日本の位置づけにも及ぶ可能性がある。
またオバマ政権下でゲーツ国防長官、パネッタ国防長官が、ホワイトハウスと何度も激しく衝突し、辞任後も手記などでオバマ批判を繰り返したことをみると、ヘーゲル国防長官も同じ道を選ぶのではないか。
このことはヘーゲルの首を斬ったから、国防総省を抑え込んだということにはならない。米ブルームバーグは「国家安全保障上の新たな課題などが背景にある」とし、米ウォール・ストリート・ジャーナルは「オバマが政策決定過程を中央集権化し非生産的なものにしている」と批判している。
■11月24日(ブルームバーグ):ヘーゲル米国防長官が辞任する。就任してから21カ月。戦略をめぐるホワイトハウスとのあつれきや国家安全保障上の新たな課題などが背景にある。
オバマ米大統領はヘーゲル長官(68)について、アフガニスタン駐留米軍の縮小や新たな脅威であるイスラム過激派組織「イスラム国」との戦い、さらに厳しい国防費など、国防総省の過渡期に優れた統率力を発揮したと評価した。
大統領によると、ヘーゲル長官が先月、政権の残り2年における自身の役割について協議することを申し入れた。双方は「この過渡期に国防総省を導いてきたヘーゲル長官が任務を終えるには適切な時期だ」との見解で一致したという。
大統領側近やヘーゲル長官に近い複数の国防当局者は、政策に関する立場の相違や国家の戦略の伝達方法に対するホワイトハウスの厳しい統制をめぐり双方に不満があったと指摘している。
大統領の国家安全保障チームの幹部らは、シリアやイスラム国対策に関する戦略をめぐってヘーゲル長官と衝突していた。ホワイトハウスの当局者によれば、ここ数カ月はヘーゲル長官と、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)を含む政権幹部との間で緊張が高まっていた。
大統領は後任を指名しなかったが、カーター前国防副長官やフロノイ元国防次官が候補となる可能性がある。民主党上院議員でウエストポイントにある米陸軍士官学校卒業生のジャック・リード議員の名前も挙がっているが、リード議員の報道官は24日、同議員は候補として検討されることを望んでいないとコメントした。(米ブルームバーグ)
■ヘーゲル氏で3人目―ホワイトハウスとの対立で辞任した国防長官
ヘーゲル米国防長官はオバマ政権下で辞職する3人目の国防長官となる。前任の2人と同様に政権と何度も激しく衝突した結果だ。
米政府関係者によると、ヘーゲル長官は政権の意思決定の遅さに不満を抱いており、ウクライナとシリアに関する米国の戦略について、陰でホワイトハウスの安全保障担当者と衝突していた。オバマ政権では、同氏の前任のゲーツ、パネッタ両前国防長官とも退任後に出版した回想録の中で、オバマ大統領が国防総省の仕事の細かい部分まで口出しをして邪魔をしたと厳しく批判している。
ヘーゲル長官は最近、イラクとシリアの問題での米国の戦略についてホワイトハウスと異なる意見を表明していた。関係者によると、長官は10月にライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に送ったメモで、米国はシリアのアサド大統領に対する姿勢を明確に打ち出すべきと主張していたという。
共和党重鎮のマケイン上院議員(アリゾナ州)は24日、「2人の前任者とも政権からの口出しが過剰で、それがいかに仕事を難しくしたしたかについて証言している。チャック(ヘーゲル氏)の場合も同じだ」と述べ、ヘーゲル氏はオバマ政権の政策決定プロセスの犠牲者であるとの見方を示した。
ゲーツ、パネッタ両前長官とも、ホワイトハウスと国防総省が対立し、しばしば国防総省高官に苦い思いをさせていたと述べている。ゲーツ前長官は手記の「Duty(仮題:任務)」の中で「オバマ政権の細部管理志向と、手柄は自分のものにする一方、実際の仕事を遂行した人間に何も与えない姿勢にクリントン国防長官(当時)も私も気分を害していた」と記している。
一方、パネッタ前長官は、2011年に米国がイラクから撤退した後に米兵の残存部隊を置かないとしたホワイトハウスの決定は誤っていたと、手記の「Worthy Fights(仮題:価値ある戦闘)」の中で述べている。また、政権と国防総省の厳しいやり取りを示すエピソードとして、同氏は当時のミシェル・フロノイ国防次官が米兵の一部残留を主張したのに対しホワイトハウス側がそれを押し返したことを挙げ、「そうした綱引きが、時に非常に過熱した」と回想している。
パネッタ氏はさらに「フロノイ次官は、われわれの主張を展開したが、政権側はとにかくイラクから撤退することしか考えておらず、米国の影響力を残し、政治的利害を守る体制を定着させることは二の次となっているとわれわれは見ていた」と記した。これに対し、ホワイトハウス側は、イラクの政権側が米兵の残留に反対していたと反論している。
フロノイ元次官はヘーゲル氏の後任の第一候補に挙げられている。
両前長官とも、オバマ大統領が政策決定過程を中央集権化し非生産的なものにしているという点で意見が一致している。
パネッタ氏は大統領が政策決定でホワイトハウスのスタッフへ過度に依存していることと、クリントン前大統領など過去の政権と比べても介入が著しいと批判した。「私が見たどの政権、そして私自身が決定の中心の近くにいたクリントン政権と比べても、オバマ大統領の政策決定プロセスは格段にホワイトハウスに集中されている。各省庁のトップはめったにその過程を指揮したり、優先度を付けるよう促されことはなかった」としている。
一方、ゲーツ前長官はアフガニスタンでの米国戦略にはオバマ大統領自身が直接に細かなところまで関わっていたことを明かしている。その上、大統領は、いったんは自ら承認した戦略を信ずることができなくなり、戦闘からの撤退に躍起となっていた。さらに、自分が選んだ司令官に批判的になり、ホワイトハウスのスタッフと国防総省の制服組幹部が対立を続けていたと述べている。
ゲーツ氏は手記の中で、11年3月の会合の中でオバマ大統領が戦闘を指揮するよう自ら選んだペトレイアス大将とアフガニスタンのカルザイ大統領に疑念を表明したことを明らかにしている。
「会合に参加しながら次のように考えていた。『大統領は自分の選んだ司令官を信じていない。カルザイ大統領にも耐えられないと感じている。自分自身の戦略を信じていないし、自分がこの戦争の司令官だと思っていない』」とした上で、ゲーツ氏は、「大統領にとっては撤退することがすべてだった」と結論付けていた。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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