17851 サウジの原油減産を見送りを読みとる    古澤襄

私か書くものは独断と偏見に基づくと、あらかじめお断りしているが、いい加減なものを書いてきた覚えはない。夏の段階で「年内解散・選挙」の可能性を書いたし、最近では12月選挙で連立与党が大勝する可能性を予測している。それなりのデイープ・スロートの予測を基にしている。
いま最大の関心事は石油輸出国機構(OPEC)が原油減産を見送る決定を下したことである。この主役はサウジアラビア。
経済原則から言えば、原油価格が低落しているのだから、生産を押さえて価格の維持を図るのが当然の措置であろう。分かり安い例を示せば、コーヒー価格が低落すれば、産出国はコーヒー豆を大量に捨てて価格の維持に努める。原油とて例外ではない。
サウジアラビアが原油減産を見送れば、そして同国の原油生産が落ち込めばサウジアラビアそのものも経済的な打撃を受けるであろう。そのリスクを承知であえて原油減産を見送ったのは何故か。
そこには経済を超えた政治的な何かがあると言わざるを得ない。
欧米メデイアはいくつかの要因を挙げている。
■中東の原油依存から脱皮を図るアメリカは地下深いシェール(頁岩=けつがん)層にある原油や天然ガスを掘削する技術によって、エネルギー生産に革命を起こそうとしている。だがシェール革命による原油価格はまだコスト高の高値にとどまっており、中東産の原油とは競争するところに至っていない。
サウジアラビアが原油減産を見送り、予想される石油価格の下落によって、アメリカのシェール業界には打撃を与えている。
■アメリカ主導の経済制裁によってロシアは経済的な打撃を受けている。世界第三の石油埋蔵量を誇るロシアにとって石油価格の下落は経済的な打撃となる。サウジアラビアが原油減産を見送り、石油価格の下落すれば、それはロシアの資源外交に痛撃を与えるのは自明の理である。サウジアラビアの狙いはロシアなのか。
■ここでサウジ王制の外交戦略を担当しているバンダル王子(諜報長官)に注目したい。駐米大使でもあったバンダル王子はテキサスの石油成金だったブッシュ家と親しい関係を築いた。その一方でことしの七月にはモスクワを訪問してプーチン・バンダル会談を行っている。
イランとの和解に走るオバマとの関係は良くないとみるべきであろう。むしろバンダルは「アメリカ離れ」の色を濃くしている。
■イスラエルはアメリカが国連で提案した「ロシア非難決議」に棄権した。イスラエル外相はロシアを何度か訪問、最新のイスラエル・ニュースは「欧米とイランの核協議に当たっているケリー米国務長官が、協議は来年6月末まで期限が延長されるとの見通しを発表。ネタニヤフ首相は悪い合意がなされるよりは良い・・と突き放した見解を表明している。
これらは断片的な情報だが、イランとの和解を目指すオバマ、ケリーの中東外交が、かつての同盟国から歓迎されずに、むしろアメリカ離れを招き、束の間かもしれないが、ロシア接近の傾向をみせている点に注目すべきであろう。
だが私はもっと大きな力が働いている気がしてならない。これこそ独断と偏見なのだが、アメリカ社会の各界で指導的立場にあるユダヤ系アメリカ人の動きがいまひとつ鮮明でない。2億8000万人のアメリカ人口で僅か3%580万のユダヤ系アメリカ人だが、その指導的な層はグローバリスト(地球主義者)である。
これに対してイスラエルのユダヤ人はグローバリストというよりは、イスラエルの生存を重視する愛国主義者の色が濃い。だが、オバマがイランと接近の外交路線を選択したしたことによって、ロシアに接近したりする動きは一国愛国主義の路線から外れてきたと私は感じる。
もともとユダヤ系アメリカ人は民主党支持者が多い。初の黒人系大統領を生んだ2008年の大統領選選では八割に近いユダヤ系アメリカ人がバラク・オバマを支持した。それが中間選挙で民主党惨敗となったのは、オバマ中東外交に対する批判の現れではないか。ユダヤ系アメリカ人といってもヒッピーなど貧困層からアメリカの指導層まで含まれるから一律に論じるわけにはいかないが、オバマ離れをみせたのは注目すべきであろう。
少なくとも米各界に隠然たる力を持っているユダヤ系アメリカ人の指導層は、民主党支持の基本路線は保っているが、ヒラリー・クリントンに期待を繋いでいるとみる。
少し飛躍するがサウジアラビアは、イスラム教のワッハーブ派を国教とする政教一致国家なのだが、18世紀にワッハーブ派が登場するまでは、イラクのバスラ出身のユダヤ系人の信仰という説がある。
またサウジ王家のバンダル王子はイスラエルとサウジアラビアの秘密交渉を持ったという未確認情報が流れたこともある。バンダルがサウジ王家内でイスラエルとのパイプが最も深い人物というのは疑う余地がない。
まだ断定的にはいえないが、サウジアラビアが原油減産を見送ったのは、アメリカのシェール革命に痛撃を与える経済的な行動というよりは、もっと奥底が深い国際政治が背景があるとみた方がいいというのが、私の見解である。
杜父魚文庫

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