17912 書評 「中国がアメリカを越える日は実現しない」    宮崎正弘

■むしろ若い、活気のある発展が展望できるのはインドだ
<加瀬英明『アメリカはいつまで超大国でいられるか』(詳伝社新書)>
米国内でも「やがて中国がアメリカを抜きさって世界一の大国になる」と本気でのたまう学者、ジャーナリストが大勢いたが、いまは影を潜めたという。
中国を敵視する政治勢力の方がアメリカでは強くなった。共和党は議会で上下両院を制したためオバマ大統領は完全な死に体である。
しかも全米最大の週刊誌『TIME』がオバマを「これほど信じられない無能な大統領」とまで酷評した。

「就任直前の世論調査で、82%の高い支持率を記録した」オバマは、まさに「帚星のように現れて、大統領として選出された」が、それは「現世離れした救世主信仰」(20p)によってもたらされたかのようだった。
オバマ大統領は「帚星」、なるほど。『救世主信仰』も納得できる微妙な表現だ。
しかし『チェンジ』も「イエス、ウィキャン」という経文も見事に色あせ、国民の大半がオバマにそっぽを向いた。だがしかし、この無能大統領が、あと二年も世界一の超大国を牽引するのだ。
空恐ろしいことである。
加瀬氏の新著はいつものように文体が独特で、しかも深刻なほどの諧謔、そのユーモラスな表現の行間に潜む鋭角的批判精神が随所に発揮される。
アンクルサムはまるで「アコーディオン」だと比喩する箇所など笑いをこらえる必要がある。「アメリカは外へ向かって力をふるうかと思うと、そのうち勢いあまって失敗して縮こまる」
中国の未来に関して加瀬氏の予測は悲観的だ。
「私は中国の現体制が長く存続することはないと見ている。中国の現体制が崩壊するときに、アジアが大きく揺さぶられることになろう」
そして「インドが大きく発展して、中国と入れ替わって、アジアの巨人経済になると思う。中国はきわめて脆弱な一党独裁体制のもとにおかれているが、対照的にインドは民主法治国家」だからだ、とする。

数学の天才が多いインドには独創的な発明をする風土があり、大学は多く、学問の自由がある。
反対に独裁国家の中国では自由な学問が成立しないため独創的発明ができないゆえに工業の発展に限界がある。
そのうえ人口構成も若いインドと、高齢化少子化の中国の現実をみれば、近未来の発展予測は真逆ではないか、とインドの高度成長を見据えるのだ。
アメリカの将来にも意外と楽天的な見方が本書の基調をなしている。
杜父魚文庫

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