■前原氏なら「分裂」も… 民主党代表選は野党再編の起爆剤となるか?
15日昼前、民主党代表の海江田万里は都内のホテルで幹事長の枝野幸男と向き合った。ともに衆院選で首相(自民党総裁)の安倍晋三に「狙い撃ち」されたが、枝野は埼玉5区で辛勝した。海江田は比例復活もかなわず、落選の憂き目に遭った。
「代表を辞任させていただく。いろいろありがとう…」
神妙な面持ちでそう語る海江田に枝野は黙って頭を下げた。その後、代表代行の岡田克也、参院議員会長の郡司彰も加わり「敗戦処理」を協議したが、海江田は「後は全部任せる」とほとんど口を挟まなかった。
午後3時、海江田の辞任会見が東京・永田町の党本部で行われた。
「民主党の団結を守って来春の統一地方選で確実に民主党を再生させていけるよう心から希望します。再生は道半ばだが、前に向かっての着実な一歩だった。私はこれから一党員としてできるだけのことをやっていきたい」
うっすらと涙ぐんでいた14日夜とは違い、さばさばした表情だったが、言葉は力なく、得意の漢詩をそらんじることもなかった。
海江田にとって自らの落選は誤算だったようだが、民主党議員の多くは選挙中盤から「海江田氏は落選」と踏み、ポスト海江田に向けて動き出していた。
「腹は固まっているんだろうな?」
開票結果がまだ出そろわない15日未明、元防衛副大臣の長島昭久は元幹事長の細野豪志に電話で代表選出馬を促した。「おう!」。その言葉は力強かった。
元外相の前原誠司も投開票直前、周囲にこう漏らした。「次の代表は平成28年夏の参院選でねじれを作れるかどうかだ」。出馬意欲は満々にみえる。
前原、細野、長島の3人は野党再編志向が強い。これに元外相の松本剛明を加えた4人は衆院解散直前の11月19日に、海江田に維新の党との新党結成を直談判したが、一蹴された。この時点ですでに海江田に見切りをつけたとされる。
だが、野党再編はそう容易ではない。民主党最大の支持団体である連合は、維新の党共同代表(大阪市長)の橋下徹と対立しており、維新との合流に反対しているからだ。ある労組系議員はこう息巻く。
「前原、細野が代表選に出たら党は分裂してしまう。あいつらが代表選に出るんだったら絶対潰す!」
野党再編を唱える一派は保守系が多く、安保・外交に一家言を持つ者も多い。それだけに官公労や旧社会党の系譜を引く議員らは嫌悪感を隠さない。
しかも来年の通常国会は、安倍が執念を燃やす安保関連法制が最大の焦点となる。旧社会党系は「断固阻止」と息巻いており、一部でも同調しかねない前原らの代表就任を承伏するはずもない。
そこで労組系が擁立に動き出したのが岡田だ。どこの派閥にも属さぬ一匹狼であり、かつ安倍自民党との対抗意識は誰よりも強い。「岡田が代表なら前原らも反発して党を割るようなことはない」(党中堅)という読みもある。
民主党を陰で牛耳る連合も決して一枚岩とはいえない。中でも旧同盟系の「民主離れ」は著しい。
かつて「労組系最強」といわれた古本伸一郎(愛知11区)は、トヨタ労組の全面支援を受けながら苦戦した。基幹労連組織内議員で党代表代行の高木義明(長崎1区)、UAゼンセン組織内議員で党国対委員長の川端達夫(滋賀1区)はともに選挙区で2回連続落選し、比例復活した。
旧同盟系が属する企業はアベノミクスで潤った企業が多く、民主党の経済政策に批判的な組合員が少なくない。原発再稼働問題を抱える電力総連の「民主不信」はさらに深刻だ。旧同盟系幹部はこう漏らした。
「もう連合は労働者の立場に立った政策・制度に特化した組織になるべきだ。政治は産別の判断に任せてもらわねば、とてもじゃないが選挙などできない」
しかも旧同盟系は旧民社党の支持母体で安保政策や憲法観はむしろ安倍自民党に近く、旧総評系の対極にあると言ってよい。
昭和62年の創設以来、反自民勢力の結集に大きな役割を果たした連合もまた軋みが広がりつつある。民主党代表選は色あせた看板を奪い合う戦いには終わらない。労働界をも巻き込んだ野党再編の起爆剤となる可能性も十分にある。(産経)
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