18029 習近平の太子党+団派という「連立政権」に甚大な亀裂    宮崎正弘

■令計画(前中央弁公室主任)の一族が失脚、胡錦涛に牙
それは2012年三月だった。北京市海定区保福寺橋付近を猛スピードで疾駆してきたフェラーリが壁に衝突、フェラーリは炎上し、なかにいた二人の男女が即死した。
運転者は「令谷」と判明、同乗していた女性は半裸だったという。令谷は令計画の息子である。
この時点で令計画は飛ぶ鳥を落とす勢いにあり、次期政治局入りは間違いないとされた。マスコミは令計画を「ライジング・スター」と書いていた。
令は胡錦涛の右腕として、政治日程、外遊計画、演説内容の事前チェックなど中南海政治の枢要な部分をしっかりと握り、方々ににらみをきかせた。米国で言えば大統領首席補佐官である。
令計画は息子のフェラーリ事故(「法拉利車禍」という)を「なかったことにしてくれ」と公安・司法・検察方面を牛耳っていた周永康(政治局常務委員。序列9位)に依頼した。周は当時、まだ政治力があると信じられていたが、彼の支配した石油派は追い詰められていた。
周永康の僚友だった薄煕来は事実上、失脚していた。習近平は、このふたりの目の上のたんこぶを排除することで権力基盤の安定を急いだ。
つぎに彼が取り組んだのは反腐敗キャンペーンの本格化で、これを武器に政敵を追い込むことだった。
たちまち令計画の息子のスキャンダルが中南海を駆けめぐり、令は突然、閑職へ追いやられる。中央弁事処主任は団派出身だが習近平とも近い栗戦書と交替し、令計画は統一戦線部長から政治協商会議副主任に降格される。このポストは飾りで、同色には20名前後の「力を失った人」が名前を連ねるだけ。
令計画の恨みは習近平に向けられ、習の特別機がタンザニアに駐機したおりに密漁された象牙が大量に主席専用機に積み込まれたというマル秘情報を英国のメディアに流したとされる(真相は不明)。
▼これで習近平の権力基盤は確乎としてものになったか?
習近平の反腐敗キャンペーンは石油派、鉄道部から究極的には江沢民派の牙城に狙いを定めていた。
しかし江派の反撃も凄まじく、引退生活を決め込んでいるはずの江沢民は故郷の江蘇省揚州に船を浮かべたり、スターバックス社長と会見したり、上海の国際信頼醸成会議ではプーチン大統領と会見し、八月の北戴河会議にもあらわれ海水浴している姿を写真に撮らせ配信させ、その健在ぶりをアピールした。
これらの示威行動は、江沢民が「これ以上の捜査を許さない」と示唆しているのである。
バランスをとるために習近平は団派にも照準を合わせざるを得なくなった。いまの政権が団派を大量に登用して太子党の存続を図る「連立政権」である以上、団派を正面の敵に回せないことは分かっている。
しかし最低限度のスケープゴートが必要だった。その格好のターゲットが令計画だった。
令計画にはほかに三人の兄弟と一人の妹がいる。それぞれが出身地である山西省政府に要職を占めていた。兄弟五人の名前は「路線」「方針」「政策」「完成」と言う。なにかお笑いの語彙羅列と印象があるが、「方針」が妹である。
2014年六月、山西省幹部だった兄の令政策(当時山西省政商協会議副主任)が「汚職による重大な規律違反」として拘束された。
妹の令方針は運城市医療センターの副院長だった。その夫・王健康(当時山西省運城市副市長)が、つぎに取り調べのため拘束された。6月25日付けの香港紙「明報」は、令計画の兄妹が消息を絶ったと報道した。中国のネットから、令計画に関するあらゆる記事が削除された。
2014年5月12日に運城市医院連合会総会が開催されたが、要職に令方針の名前はなかった。同時期、令計画の妻、チャリティ基金会の幹部をつとめていた谷麗坪が、はやり幹部リストから削除されていた。
同年10月、末弟の令完成がやはり規律違反として取り調べを受けている模様と香港のメディアが報じた。この弟は吉林大学卒業後、ながらく新華社につとめ、系列の広告会社の社長から民間に転じた。ビジネスで成功したと噂された。長兄の令路線とその一族が、このビジネスに合流して、かなりの資産を蓄積したという。
狼狽激しい令計画は党中央理論誌『求是』に論文を発表し、なんの脈絡もなく習近平への忠誠が重要と16回も記述するほど習政権に媚びを売った。醜態である。
そして2014年12月22日、新華社は令計画の失脚を発表したが、詳細は不明とした。令計画一族は全員が失脚した。
杜父魚文庫

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