■江蘇幇(浙江省、江蘇省)雪崩。あらたに登場は「習近平」ボディガード派
在米華字紙の『多維新聞網』は「江蘇幇」が「雪崩」に遭遇したと報じた。これから江蘇閥の落馬雪崩が開始されるだろう、という。
1月4日に江蘇省常任委委員兼任南京市当委員会書記の楊衛澤が拘束され、汚職の取り調べを受けていることが判明した。楊は「江蘇幇」のライジングスターとされた。
「四川省派」「石油派」「法政王国」「西山会」と次々に党内に形成されてきた派閥の幹部が失脚してきたが、この結果、新しくポストに就いているのが習近平派である。
太子党は団結しない横の連絡網のような存在だが、習近平は太子党出身者に拘らず、福建省時代の17年間、浙江省時代5年間で培った部下をつぎつぎと、失脚させた幹部の後釜に据えだした。
えこひいき人事の典型が南京軍区31軍司令官だった王寧がいきなり武装警察司令官にジャンプ。同軍区副司令官だった宋普選が、北京軍区司令官に大抜擢された。
つまり信頼できる部下で、習近平防衛の周辺を固めるという、いってみれば習近平の紅衛兵、あるいはボディガード部隊だ。
江沢民が牛耳ったのは『上海派』と呼ばれる利権集団だが、メガロポリス上海は北が江蘇省、南は浙江省。その南が福建省である。福建省の人々は江蘇人脈が大嫌いである。
すでに明らかなように「四川省閥」と「石油派」は人脈が折り重なり、薄煕来(重慶書記)と周永康は何人かの情婦を共有したほど仲のよい利益共同体だった。ふたりの失脚によって数百の幹部が連座失脚し、それらの重要ポストを福建省時代の習近平の部下たちが多数埋めたとされる。だから「江蘇幇が雪崩」という比喩になる。
「西山会」というのは山西省を逆さまにもじった利益共同体で、さきごろ失脚した、胡錦涛の右腕でもあった令計画らの山西省閥を意味し、これらのポストもいずれ習近平の息のかかった者たちが就任するだろうと予測される。
したがって従来いわれた「太子党 + 団派」という習の連立政権に亀裂が生じ、これから団派が巻き返すか、どうかが権力党争の今後の焦点となる。
▼団派の領袖に奇妙な動きが始まった
動きが出た。
団派のライジングスターで次期政治局常務委員入りは間違いないと言われる王洋(副首相)は12月27日に奇妙な発言をしている。
「米国は世界のガイドであり、中国は喜んで米国のつくりあげたシステムに参加する」と言ったのである。
王洋は米中戦略対話で、中国を代表し、G2などとおだてられてきた米中蜜月時代とはうってかわり、オバマ大統領は北京APECでも、中国の言う「新しい大国関係」に何ほどの興味も示さなかった。米中関係は突如、氷雨が降る極寒の関係となり、さらに中国がロシアと異常接近をはじめた動きに米国は不快感を示してきた。
その米国批判の前面にあった王洋が転向ともいえる奇妙な発言をした背景には、米国の景気回復と対比的な中国経済の落ち込みを客観視して、時間を稼ごうとしている戦術なのか、或いは国内的には団派vs太子党という権力闘争の対決図を回避するために、団派が習近平に送ったシグナルなのか?
そして12月29日に習近平は演説し、「党内の団結が重要、派閥形成はしてはならない」と繰り返し、強調したのだった。(注 王洋の「王」はさんずい)
杜父魚文庫
18123 中国権力闘争、団派は窮地に陥没したのか、捲土重来の最中なのか 宮崎正弘

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