18207 スイス中銀のフラン上限撤廃をめぐる5つの疑問    古澤襄

スイス国立銀行(中央銀行)は15日、過去3年半の間設定していたスイスフランの対ユーロ相場の上限を撤廃すると発表し、市場に衝撃を与えた。
スイス中銀当局者はここ数ヵ月間、フランの対ユーロ上限を死守すると繰り返し表明してきた。上限設定は、ユーロの混乱からスイスの輸出依存型経済を守るとともに、デフレの恐れを抑えることを狙ったものだった。
 
しかし、同中銀がフランの対ユーロ高の行き過ぎを食い止めるためにユーロを中心とする非フラン通貨建て資産を購入するコストとリスクが、あまりに大きくなってきた。上限撤廃を受けてフランは急騰し、スイス中銀の信頼性に対する疑問が高まっている。
 
今回の措置をめぐる疑問点を5つ取り上げ、それぞれ答えを示そう。
 
 Q:スイス中銀はなぜフランの上限を設定したか
 
 A:ユーロ危機に際して、以前から有事には安全な資金逃避先とみられてきたフランの対ユーロ相場は急騰し、ユーロ圏向け輸出が大きなシェアを占める同国の製造業者を脅かした。そのため2011年9月に中銀は、フランの対ユーロ相場が1ユーロ=1.20フランを突破しないようにするとの目標を設定した。
 
 Q:それは効果をあげたか
 
 A:スイス経済は近年ユーロ圏よりも速いベースで拡大しているが、インフレはゼロ近辺のままであり、同国経済はデフレのリスクを回避できていない
 
 Q:なぜ上限を撤廃したのか
 
 A:中銀は、フランについて依然として堅調だが、上限を設定したため「過大評価は全体として低減した」と指摘。一方ナリストらは、今後数週間この上限目標に対する圧力は強まるとみていた。とりわけ、欧州中央銀行(ECB)が大方のアナリストの予想通り、来週の理事会で量的金融緩和に乗り出せば、ユーロの供給量は増えユーロは一段と下落する可能性がある。
 
 Q:上限撤廃はスイス中銀にとってどういう意味があるか
 
 A:中銀は直ちに2つの問題に直面する。1つは中銀に対する信頼であり、もう1つはバランスシートの多額の含み損である。撤廃により、今後スイスの政策当局者は表明した意向が本心であると投資家を説得するのが難しくなりそうだ。加えて、中銀はバランスシートにフラン建てでは減価する恐れのある外貨建て資産を大量に計上しているため、これら保有資産の含み損が大規模になる可能性がある。
 
 Q:他の中銀にとっての教訓とは何か
 
 A:今回のケースは、中銀が一時的な緊急措置とみられたものを長期間継続することや、自国の経済を他の主要国の動向から遮断することがいかに難しいかを示すことになった。また、スイスのような中小国の中銀が、ECBや米連邦準備制度理事会(FRB)など主要国・地域の中銀の政策によって動かされる市場の流れに抗するのは難しいことも浮き彫りになった。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
 
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