18278 手段選ばず狡猾に揺さぶり    古沢襄

■“蛮行”3つの狙いは・・・

【カイロ=大内清】今月20日以降、立て続けに日本人の人質の声明ビデオや音声メッセージを公表してきたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」。そこからは、いくつかの狙いを同時に実現させようとする狡猾(こうかつ)な意図がみえる。

24日と27日にイスラム国とみられるグループがネット上に流したメッセージは、後藤健二さんとみられる静止画とともに本人の声を流すという形がとられた。いずれのメッセージも、家族に向けて「私たちを(イスラム国に)殺させないでくれ」と懇願させ、日本やヨルダン政府に対して政治的圧力をかけるよう求めさせる内容だ。

メッセージを聞いた家族や一般国民に焦燥感を募らせることを狙っていたのは明らかで、日本国内で後藤さん解放に向けた嘆願運動が盛り上がり、日本政府に対する批判が高まれば、政府への揺さぶりになるとの計算も働いているものとみられる。

イスラム国は、これまでに処刑した欧米人の人質らのケースでも、家族に向けて助けを求めさせる手法を多用している。

■聖戦の“本流”の存在感主張

イスラム国が当初、2億ドル(約236億円)という巨額の身代金を要求して交渉期限を設定し、その後、要求内容を大きく変化させたことや、短期間のうちに複数のビデオやメッセージを相次いで公表したことは、日本やヨルダンといった当事国のみならず、欧米メディアなどからの注目を集める効果を狙ったものだ。

イスラム国は、すでに絶縁関係にある国際テロ組織アルカーイダと思想的な共通点は多く持ちながらも、ジハード(聖戦)勢力の“本流”の座をめぐりライバル関係にある。世界の耳目を集める発信力の強さが、戦闘員を引きつける求心力や他の過激派組織への影響力に直結するためだ。

アルカーイダ系の「アラビア半島のアルカーイダ」が今月、フランスの風刺週刊紙銃撃事件で犯行声明を出して世界的な注目を浴びる中、イスラム国側は、その向こうを張る形で安倍晋三首相の中東歴訪というタイミングを奇貨として、存在感を誇示しようとした可能性がある。

■有志連合の結束切り崩し

さらにイスラム国は、身代金要求をヨルダンで死刑判決を受けていた女性テロリストの釈放に切り替えることで、事件にヨルダン政府をも巻き込み、日本とヨルダンの関係悪化と有志連合の切り崩しにつなげようとした可能性が高い。

ヨルダンとイスラム国との間では昨年12月以降、女性テロリストの釈放と引き換えにイスラム国が拘束したヨルダン軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉の解放を模索する動きがあったとされる。

にもかかわらず、イスラム国が今月24日のメッセージで一転して女性テロリストと後藤さんの「1対1」の交換を持ち出したのは、ヨルダン国民に日本への反感を植え付けようとの意図があってのことだ。

両国はともに対イスラム国有志連合の参加国で、特にシリアやイラクに隣接する親欧米の穏健王制国家ヨルダンは、米国などから軍事面でも大きな役割が期待される存在だ。

アラブ世界の名門として知られる王家ハーシム家は、イラクやシリアの部族社会にも影響力を持つとされることから、イスラム国に関する情報収集などでも力を発揮しているとされる。

今後のヨルダン世論の動向は不透明だが、イスラム国側には、伝統的に良好な日本とヨルダンの関係にくさびを打ち込んで同国を動揺させ、有志連合の結束に打撃を与える狙いがあるとみられる。(産経)

<a href="http://www.kajika.net/">杜父魚文庫</a>

コメント

タイトルとURLをコピーしました