■信用失墜しても瀬戸際戦術にうって出た 臼杵陽・日本女子大教授(中東現代史)
ヨルダン軍パイロットのモアズ・カサスベ中尉とされる映像の公開は、有志連合の攻撃などにより追い詰められた「イスラム国」が瀬戸際戦術にうって出たことを意味している。
イスラム国はシャリーア(イスラム法)に基づく厳格な国家の実現を標榜(ひょうぼう)し、一部のイスラム教徒の共感を誘って勢力を拡大していた。中尉は米軍主導の空爆に参加し、アラブの同胞を殺害した裏切り者として扱われた。
しかし、「火あぶりの刑」はイスラムの世界では禁止されている。宗教的にも逸脱した残虐な処刑で、多少なりともあったイスラム国に対する信者の「信用」は完全に失墜してしまったのではないか。
カサスベ中尉の一家は国内では有力部族であり、ヨルダン社会でも影響力を持っている。一家は中尉を救出できない国王に責任を求める動きを強め、王政自体を揺さぶる状況になっていた。ただこの映像公開後、ヨルダン社会は一致団結した様相となっており、一家としてはもう国王に責任を転嫁することは難しい。
イスラム国の内部でもアラブ諸国の反応を恐れて、映像を公表することに反発があったはずだ。しかし、空爆などによってすでに危機的な状況にあったため、求心力を保つためには、手の込んだより残虐な手法を選ばざるを得なかったのではないか。この映像は、イスラム国が追い詰められている証左でもある。
イスラム国が、中尉の拘束をもとに本格的な攻撃対象にした穏健親米国のヨルダンが崩れれば、次にイスラム国はイスラエルへの攻勢を強めるはずだ。
イスラエルまで巻き込まれる事態に陥ると、中東地域の更なる混乱、長期にわたる不安定化につながる。ヨルダンは、イスラム国の攻勢を食い止める「最後の砦(とりで)」であり、国際社会は支援を強化する必要がある。(産経)
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