18353 外交反撃に転じたプーチンのロシアだが    宮崎正広

■ドイツに戦時賠償請求の声をあげ、米国抜きの「新ヤルタ会議」など

クリミア半島の南端は黒海に面するリゾート地ヤルタ。

湖畔に近いリバディア宮殿は、かの「ヤルタ密約」を締結するためにスターリン、ルーズベルト、チャーチルが集まった場所である。

筆者も二十年ほど前に行ったことがあるが、瀟洒で小振りな宮殿は白色に統一され、建物の一部は公開されており、ヤルタ会談の写真パネル展示がある。

すぐ近くのホテルに泊まったが、室内プールは黒海の水を引いており、塩っぽい。夏は海水浴にくるロシア人でいっぱいになる。
 

このリバディア宮殿で「ヤルタ1945 過去、現在、未来」と題したシンポジウムが開催されるという(英語版プラウダ、2月5日)。

独仏英など欧州の主要国からは代表を招くが、米国とカナダからゲストを招待しない方針で、会議ではプーチン大統領が基調演説をおこなうという。

「地球的規模の安全保障のシステムを早急に確立し、第三次世界大戦を回避するために建設的な方法での難題解決をめざしたい」というのが、この新ヤルタ会議の主旨というのだが、背景にはウクライナ問題で強硬姿勢を崩さない米国に対して欧州を離間させる狙いがあるのだろう。

ウクライナと国境を接するバルト三国やポーランドは、むしろ対ロ強硬派が政治的リーダーシップを執っており、これらの緩衝地帯からはずれてドイツ、フランスが位置するわけで、ウクライナ問題では温度差がある。

ポーランドは戦後七十年記念行事として、アウシェビッツで式典を行う。

しかし、この式典にはロシアのプーチン大統領を招待しないと言明している。かわりにウクライナ大統領を招待する。ポーランドの反ロシア感情には抜きがたいものがある。

 ▼戦後七十年、欧米露の駆け引きはアウシェビッツからヤルタまで

この措置に立腹したロシアは「アウシェビッツを解放したのはロシア兵だった」として、関係国に歴史論争を挑み、ついでとばかりドイツに「戦後賠償を支払う義務があり、また旧東ドイツから撤退したロシアへの補償金もあわせて要求する」と息巻く。

ゴルバチョフ元大統領は、「米国はロシアを新冷戦に巻き込もうとしている。冷戦が熱い戦争にはならないだろうが、第三次世界大戦に発展する危惧があり、欧州各国は程度の差こそあれ相互依存のなかに暮らしているが、米国とドイツの力はぬきんでている。米独がロシアへの外交を読み間違えており、これは危険な兆候である」と現状を分析している。

ゴルバショフはまた「西側はプーチン大統領の訴えに真摯に耳を傾けるべきであり、わたしはプーチンの外交政策を支持している。ロシアへの制裁を早急に解除し、平和に関して話し合いを持つべき時がきている」とインタビューに答えた(プラウダ、1月29日)。

おりしも「イスラム国」のテロリズムを前に「有志連合」にも亀裂が入り、空爆を続行する米国とて地上軍の派遣をためらっており、サウジアラビアともしっくりいかず、そのうえオバマは「世界の警察官をやめた」と明言するに至った。

 
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