18415 イージス艦の元航海長が明かす「北」工作船追走劇の真実    古沢襄

「イスラム国」に日本人を「殺害」されても、日本のリーダーは「これからも“世界と協調して”テロと闘ってゆく」ぐらいのことしか言えない。欧米諸国のように自ら特殊部隊を送り込み、「力ずくでも国民を取り返す」という手段を取れないのだ。

日本に特殊部隊がないわけではない。陸自にも海自にもある。だが、「法律」がそれを認めない。これでは“宝の持ち腐れ”ではないのか。

産経新聞の連載小説『アキとカズ』は海自に特殊部隊(特別警備隊、2001年創設)をつくるきっかけとなった、

1999年3月の「能登半島沖不審船事件」を描いている。海上自衛隊史上初めて「海上警備行動」が発令され、“力ずく”で不審船を捕まえようとした事件である。

物語を書くために、当時、実際に不審船を追いかけたイージス艦「みょうこう」の元航海長(50)に話を聞いた。後に、志願して海自の特殊部隊創設に関わった人物である。

任務は外海に出るまで明かされなかった。艦長ですら「出港直前に知らされたのではないか」という。

もちろん、「海上警備行動」が発令されるなんて、誰も思っていなかった。政治家がリスクを取るはずがないと考えていたからである。

だが、この時の日本のリーダーは、パッとしない(失礼!)見かけとは違って、なかなか腹の据わった人物だったらしい。

北朝鮮の工作船とみられる不審船を停船させ、乗り込んで武装解除し、もし中に「日本人」が捕らわれていたならば救出する…。そのために、海上警備行動の発令(実際の発令は首相の承認を得て防衛庁長官=当時)を決断したのだ。

 
警告射撃は不審船を追走しながら4、5時間に及んだ。イージス艦は、士官も下士官も“スーパーエース”がそろっている。艦長の指示で行う警告射撃はことごとく「的を射た」という。

といっても間違っても“当てて”はならない。不審船の中に日本人がいるかもしれないからだ。わずかにそらして、不審船の前、後へと弾を撃ち込み、停船させる…まさしくカミワザである。

そして、やっと不審船は止まった。いよいよ乗り込んでの「立ち入り検査(臨検)」である。この任務は“機械的な割り振り”で決められる。

だから、当の本人でさえ、その要員に宛てられていることに気づいていないことも少なくない。誰もがそんな「事態」を想定していなかったのだ。

「敵」は北朝鮮の工作員である。もちろん重火器で武装しているであろう。いよいよとなれば、自爆し、船もろとも海底に沈む覚悟があるに違いない。

これに対し、イージス艦の立ち入り検査関係員には拳銃を持ったことすらない者もいる。防弾チョッキすらなく、代わりに漫画雑誌「少年マガジン」をガムテープで胸にぐるぐる巻きにしていたお粗末さである。不安は隠しきれない。

果たして声が上がった。「私は手旗の担当です。夜間に見えるはずがないですよね。行く意味があるんでしょうか?」

若い隊員が、すがるような目を向けている。だが、航海長はぐっとこらえてこう言い放った。

「つべこべ言うな。“国家の意思”なんだ!」と。(産経)
 

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