18423 「イスラム国を最も悪用しているのは中国だ」との指摘    古沢襄

■自治区を脱出するウイグル族を「テロリスト」と決めつける

 
中国新疆ウイグル自治区から脱出、亡命を図るウイグル族が増えている。習近平政権の過酷な弾圧から逃れるためとみられ、タイの施設には数百人規模が収容され、民族・言語的に近いトルコに保護を求める“避難民”も目立ってきている。

中国当局はウイグル族が過激組織「イスラム国」とつながっているとし、「テロ対策」を強調しているが、一方で「国家テロ」を正当化するためのプロパガンダだという指摘もされている。ウイグル族の悲劇は終わらない。

■結核で3歳児が死亡…口が避けてもウイグル人とは言わない

「暑さとムシムシした気候に苛(さいな)まれて皮膚病にかかっている。セメントの地面に寝て、風呂に入ったり、洗濯をしたりできるところもない」

ドキュメンタリー番組を撮るため、タイ南部の密入国者拘留センターを訪ねた在外ウイグル人映画制作者の男性は、自由アジア放送に対し、収容者の様子をこう語った。

同放送によると、タイ南部には現在、拘留センターが6カ所開設されている。300人以上いるという収容者の国籍は、はっきりとはわからない。

彼らは自らをトルコ人だと主張してはいるが、命からがら中国から逃れてきたイスラム教徒のウイグル族であることは間違いないようだ。

昨年3月、マレーシア国境に近いゴム農園で働かされているのが発見され、移送された。収容者には女性や子供が半数程度含まれ、結核で3歳の男児が死亡するなど、劣悪な環境の改善を訴えてハンガーストライキも起きている。

だが、収容者が何よりも恐れているのは「タイ政府が、われわれを中国に追放すること」だ。だから、自らウイグル人だとは口が裂けてもいわない。

強制送還されれば、厳しい仕打ちが待っている。男性は「故郷ではもう、昔から守ってきた生活ができない。自由な国に住みたいだけの思いで家族とともに住み慣れた土地を捨てる決心をした」と胸の内を語っている。

■「イスラム国」と関連づける中国政府の狡猾さ

ドイツに拠点を置く世界ウイグル会議(WUC)は、中国の弾圧から逃れるため、「多くのウイグル族が自治区から遠く離れた東南アジアに脱出し始めている。今後、増えるだろう」と指摘する。

だが、習政権は見逃さない。こうした動きこそ、ウイグル族の分離・独立派が「イスラム国」とつながっている証拠だとアピールしている。

昨年12月、共産党機関誌・人民日報系の環球時報(英語版)は、中国人約300人がイスラム国に参加しており、ウイグル独立派の「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」のメンバーだと報道。

今年に入り、1月14日には、ウイグル族らを不法出国させようとした疑いで上海司法当局が昨年11月、トルコ人10人を逮捕、ウイグル人9人を拘束したという報道があり、同19日には中国公安省が、昨年5月から雲南省や広西チワン族自治区とベトナムの国境地帯で不法出国者の集中取り締まりをした結果、計852人を摘発、手引きした352人を拘束したと発表した。

さらに、2月6日には、再び環球時報が、イスラム国で処刑された外国人戦闘員の中に中国人3人が含まれていたと伝えた。

いずれもETIMとイスラム国の“連携”が印象づけられている。だが、タイ以外でも、昨年10月にマレーシアが拘束したウイグル族の集団の中に女性、子供が多くを占めていた例もあり、中国当局の主張を鵜呑(うの)みにはできないだろう。

■「テロリストとは全くの無関係」

ウイグル族の“エクソダス”の救いの地になっているのが同胞意識を持つ中東のトルコだ。国民の間で、トルコ系のウイグル族の動向に関心は高く、国内メディアも中国の弾圧に苦しむ“仲間”の姿を取り上げることが少なくない。

英字紙デイリー・サバは1月16日、トルコ政府が中国からたどり着いたウイグル族500人を受け入れたことを報道。

「中国へ送還されれば死が待っている」として、タイの施設にいるウイグル族も保護する方針としている。さらに同紙は、脱出者がトルコの偽造パスポートを所持しており、トルコ人支援者の関与をほのめかしている。

こうした点を根拠に中国は、ウイグル族がトルコを経由してシリア、イラクに入り、イスラム国に参加しているというシナリオを描いているが、先に逮捕された10人のトルコ人について、トルコ外務省は「テロリストとは全く無関係だ」と米紙ニューヨーク・タイムズの取材に答えている。

「イスラム国の行為を最も政治的に悪用しているのは中国だ」

脱出者が難民なのか、テロ予備軍なのかは明確にはわからない。中国政府はイスラム国の脅威を理由に、一段とウイグル族への抑圧政策を「対テロ戦争」の一環だとアピールしている。

しかし、イスラム教に根ざした生活様式を禁止するなど、習政権の徹底した弾圧政策がウイグル族の国外脱出を加速させている-と、国際人権団体などは指摘しており、「国家テロ」として非難する世論もある。

中国のプロパガンダに対し、イスラム国による後藤健二さんら日本人2人の「殺害」事件に抗議する格好で、日本ウイグル協会(東京)は2月2日、次のような声明(抜粋)を発表している。

「ISIS(イスラム国)の行為を最も政治的に悪用しているのは中国だ。共産党独裁政権がウイグルで行っているのは罪のない若者の拉致、言語、伝統文化の破壊、虐殺など、ウイグル人全体へのテロ行為そのものだ。共産党がテロを利用し、ウイグル人やイスラムへの偏見を広め、さらなる弾圧を行っていることに強く抗議する」(産経)
 

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コメント

  1. 大橋 圭介 より:

    戦後70年記念行事を大々的に計画している中国がやるべきことは、日本が中国の人々にやった蛮行をあれこれ発言することだけではありません。中国に住んでいるウイグル族、チベット
    族、たくさんの少数民族に、その文化・宗教・自治の自由をみとめることです。それのない記念行事は、単なるバカ騒ぎです。

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