■ウクライナで読み誤った欧州
[モスクワ 23日 ロイター]ロシアのプーチン大統領は、自身を国家の救世主に見立てることを好むが、欧米では新世界秩序の脅威とみなされている。
ウクライナ問題で同大統領がどう動くかは、ウクライナのみならず、欧州とロシアの未来も左右する。
ウクライナは現在、親欧米派の現政権にとってほぼ制御不能な状態に陥りつつあり、欧州への仲間入りも頓挫しかけている。
一方、プーチン大統領は現段階では、自国経済が西側による制裁で打撃を受けているにもかかわらず、ウクライナ情勢で優位に立とうとしている。
ロシアがクリミアを併合してから約1年がたち、親ロシア派がウクライナ東部を支配するなか、西側が主張するロシアの軍事支援によって、プーチン大統領は親ロ派に支配地域の拡大をさらに後押しする可能性がある。
ウクライナ政府は親ロ派の攻撃が、クリミアへの通路を開くことになるアゾフ海に迫っていることを懸念している。
プーチン大統領が取る次のステップは、必ずしも拡大政策や国益の防衛に基づいて決定されるとは限らない。
モスクワに駐在する西側上級外交官の1人は「すべての選択肢が開かれている」としたうえで、「最終的にはプーチン氏が権力を維持できるかどうかがすべてで、そのためにすべきことを行うだろう」と語る。
この外交官は、今月12日にベラルーシの首都ミンスクで行われたドイツ、フランス、ウクライナ、ロシアの4首脳による停戦交渉に詳しい人物。
同外交官はウクライナが良い結果を手にする可能性は低く、最善の結果は、内戦が起きる前の2013年の状況に戻ることだとみている。
他の専門家の間には、長期にわたり激戦が続くか、戦闘が「凍結」するか、ウクライナ政府が統治も分離できなくなる小規模な衝突が続くという見方もある。
親ロ派が要衝デバリツェボを停戦合意に含まれないとして奪取したことで合意が破綻の危機にあるなか、米国ではウクライナへの武器供与の機運があらためて高まっている。
マケイン上院議員(共和)は22日、テレビのインタビューで「ウラジーミル・プーチンはウクライナに欧州の一部になってほしくない。彼はそうすることに成功しつつある」と語った。
■<プーチン大統領の地図>
ウクライナ東部の親ロ派への軍隊派遣や武器供与を否定するプーチン氏にとって、ロシアとその「近い外国」の地図は1年前と比べて自信を与えるものとなっている。
ロシアはクリミアを併合し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を徹底的に阻止する構えを見せている。
ロシア語を話す住民が多いウクライナ東部はロシアの一部になってはいないものの、今となってはウクライナよりロシアの勢力圏にあると言える。
ロシアはまた、グルジアの分離独立地域である南オセチアとアブハジア自治共和国を支配。ロシア軍は2008年、独立を主張する南オセチアにグルジア軍が進攻したのを受け介入。ロシアは同年、南オセチアとアブハジアの独立を承認して以降、権勢を振るっている。
ロシアは先週、南オセチアと国境協定を締結。グルジアはロシアが南オセチアを併合する動きだとして非難している。また、ロシアは昨年の11月にアブハジアと「戦略的パートナーシップ」協定を結んでいる。
さらに遠く離れたモルドバ共和国のドニエストル地域のロシア系住民を支援すべく20年以上前に介入して以来、ロシア軍は「平和維持部隊」として同地域に配備されている。
グルジアとウクライナ問題の政策立案には同じ人物、スルコフ大統領補佐官が関わっているが、同様なやり方をプーチン大統領が取るかは不明だ。ウクライナの場合は、征服するよりも不安定化させる方が望ましい選択かもしれない。
一方、一部の西側高官は、プーチン大統領の野心は他の旧ソ連構成国に向けられているとみている。
ファロン英国防相は先週、プーチン大統領がエストニア、ラトビア、リトアニアに「現実的かつ当面の脅威」を引き起こしていると指摘。欧州委員会のドムブロフスキス副委員長も、ロシアが欧州の地図を武力で書き換えようとしていると述べた。
また、米国務省の報道官は定例会見で「ロシアによる親ロ派への支援継続は、国際外交と多国間制度という現代の国際秩序の基礎を損なう」とし、ロシアは停戦合意の義務を早急に履行すべきと述べた。
■<米国の覇権に対抗>
プーチン大統領は、米国の覇権と同国の国益を中心とした世界秩序に対抗している。同大統領の目には、米国が他国に支持されない基準を設けていると映っている。
プーチン大統領とロシアは、他の旧ソ連構成国よりもウクライナの方が重要だと考えている。プーチン氏は、ウクライナはロシアと同じ1つの国であり、ロシア文明発祥の地とみなすと述べている。
英議会上院の欧州連合(EU)特別委員会が公表した報告書では、EUはウクライナ危機の過程でこうしたことを理解しきれず、クレムリン(ロシア大統領府)の意向を「壊滅的に読み誤った」と指摘している。
ロシアのシンクタンク、外交防衛政策評議会のカラガノフ議長も、西側は冷戦後にウクライナをめぐるロシアの関心を正しく理解できなかったとの見方を示す。
カラガノフ氏によれば、その結果、ロシアでは強い指導者への回帰と欧米の民主主義と価値観に対する失望につながったという。
しかしプーチン大統領のように、同氏も軍事衝突の可能性を減らすための政策変更は、ロシアではなく欧州が行うべきだと主張する。
ウクライナでロシア寄りの大統領が失脚してから1年、東部で親ロ派勢力の抵抗を招き、ロシアと西側の溝はかつてないほど危険なまでに深まったという。
カラガノフ氏は先週、ロシアの新聞(Rossiiskaya Gazeta)上で「欧州は今、かつて勝利した冷戦に敗北しつつある。そして分裂した国際関係という次の段階に突入しており、再び対立や大戦争に直面しようとしている」と指摘した。(ロイタ-)
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