■日本政界人脈フル活用、中国“資金洗浄ルート”駆使して「死守」図った総連
600億円を超す債務が元で競売にかけられた在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルに、朝鮮総連が引き続き居座る見通しとなった。
「立ち退き」を求める業者による落札決定から一転、転売と関連会社を使った根抵当権設定で事実上の「所有権」を確保した裏には、何があったのか。
日朝協議の陰で、政界人脈や中国経由の“資金洗浄”ルートを取り込んだ本部「死守」計画がひそかに進められてきた。(桜井紀雄)
■総連トップ「マルナカでもいい。40億円出す」
「マルナカでもどこでもいいから、民間対民間の取引で、最終的にうちが買い戻す形にしたいので、雰囲気作りをお願いしたい」
関係者によると、朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長が昨年9月の訪朝前、ある政界の重鎮の元を訪れ、こう相談したという。
「マルナカは約20億円で落札したのだから、うちは40億円出す」と具体的額にも言及したともされる。
マルナカとは、本部ビルの競売に入札し、この年の3月に東京地裁が売却許可を出した高松市の不動産業「マルナカホールディングス」のことだ。
朝鮮総連側はこの地裁判断に猛反発し、不服を申し立てる執行抗告をし、売却は保留状態となっていた。
だが、許氏の言葉からは、マルナカへの売却を覚悟していたことがうかがわれ、それを前提にした本部「死守」計画が動きだし、政界関係者への“根回し”が行われていたことになる。
マルナカ側でも難題を抱えていた。前年秋に約50億円でいったん落札したモンゴル企業が書類不備で資格を失い、たまたま22億1千万円と入札額に大きな差があったマルナカに都心の一等地の物件を落札するおはちが回ってきた。
「ビジネス目的で落札した。朝鮮総連には立ち退いてもらう」との姿勢を示してはいたが、相手は「徹底抗戦」の構えで、長引けば企業イメージにも影響しかねなかった。
そこに、仲介役を買って出たのが、前出の政界重鎮とも親しい山内俊夫元参院議員だった。産経新聞の取材に「昨年5月ごろ、『売却の仲介をさせてほしい』と自ら申し出た」と説明している。地元香川県で不動産業を営み、マルナカの中山芳彦前社長とも県議時代から親しかった。
動機については「本部競売問題は、拉致問題解決ののど元に刺さったとげのようなもの。それを除くのに協力することが政治信条にかなうと考えた」からだという。一方で、仲介料として少なくない額を手にした。
「売却は山内さんにお任せしたい」とのマルナカ側の意向も朝鮮総連側に伝えられたとされ、本部転売をめぐる取引は“山内ルート”を軸に進められていくことになる。
■「無慈悲に懲罰」一転、不気味な沈黙
拉致再調査に向けた日朝協議で、北朝鮮は当初、朝鮮総連本部の競売を再三、問題視してきた。
昨年4月の協議後には、宗日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化担当大使が、本部問題について「解決しなければ、朝日関係の進展自体、不要なものとなる」と記者団の前で語気を強めた。
北朝鮮は談話で「日本当局が司法機関をそそのかして強奪しようとするなら、無慈悲に懲罰を下す」とまで脅しつけた。
だが、日朝協議の進展に従い、日本非難は、なりを潜める。
昨年11月の最高裁による朝鮮総連の抗告棄却でマルナカへの売却許可が確定した際も、公式に反応を示していない。動揺する朝鮮総連内部に向けても、執行部側は「抗議もしないし、移転準備もしない。それがわれわれの答えだ」となだめたという。
公安関係者によると、北朝鮮が朝鮮総連に「本部死守」を通達すると同時に、売却については「日本国内の法手続であり、やむを得ない」との見解が示されたとされる。
訪朝した許氏は、肝心の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記とは面会できず、「日本での戦いは許議長に任せた」という親書だけが渡されたという。本部問題は「自分たちで解決しろ」と体よく突き放されたとも読み取れる。
■受け皿に“中朝”ビジネスマン
転売先は“山内ルート”によって、最終的に山形県の企業「グリーンフォーリスト」に落ち着く。関係者によると、グ社の代表が銀行員時代から山内氏と知り合いだった。
代表はもともと、駐日中国大使館員出身の中国人ビジネスマンとも、北朝鮮の映像を中国のテレビ局に販売するなどの事業を手掛けていたという。
また、朝鮮総連主催のパーティーに顔を出すなど、朝鮮総連と付き合いがあり、将来的な日朝国交正常化を見据え、北朝鮮との農畜産物の取引などにも意欲を示していたともいう。本部転売の受け皿としては打って付けだったわけだ。
問題はカネだった。627億円もの債務が発端だっただけに、債務者の朝鮮総連が大手を振って巨額の資金集めをするわけにはいかない。
「本部を買い戻すだけのカネがあるなら、債務を返済すべきだ」という議論が再燃しかねないからだ。
朝鮮総連関係者らによると、当初、許氏と交友のある京都の資産家に頼ろうとしたが、かなわず、昨年末に許氏自らが関西地方の在日韓国・朝鮮人の資産家らを回って工面に奔走したと伝えられる。
公安関係者によると、今回の転売で、資金の一部が中国・香港から流れたともされる。
朝鮮総連関係者はこれまでもファンドの形で香港など中国に資金を逃避させてきたといわれ、今回もグ社側が調達したカネでなければ、出所を隠す一種の「マネーロンダリング(資金洗浄)」として、香港を経由させた可能性がある。
カネの出所を隠したかった背景には、朝鮮籍から国籍を韓国籍に換えた在日商工人も少なくなく、韓国が北朝鮮の出先機関と位置付ける朝鮮総連を利する出資を明るみに出すことは避けたかった事情もありそうだ。
■北朝鮮関連の「看板」掲げ、馬脚を現す
本部転売に絡み、意外な取引も表面化した。朝鮮総連の関連団体が入居する東京都文京区にある「朝鮮出版会館」が大阪市の企業に約17億円で売りに出されたのだ。
出版会館は、本部を退去した場合の移転先にも挙がった重要拠点だ。売却益が転売に充てられたかは不明だが、それほどの拠点を手放してまで“背水の陣”で本部「死守」を優先させたとみられる。
一方で、出版会館を管理する会社名義で、本部の物件にグ社を債務者とする極度額50億円の根抵当権が設定された。
会社の代表理事には、北朝鮮国営メディアの記事を配信する朝鮮通信社の元社長が、理事にも北朝鮮の国会に当たる最高人民会議の元代議員の女性が就いている。
状況によっては、関連会社がグ社から本部を差し押さえられるという「看板」を掲げたことを意味した。
資金の出所をひた隠しにしながら、事実上の「所有権」を宣言するに等しいやり方に、公安関係者もクビをひねる。
だが、朝鮮総連の内情に詳しい関係者は「協力的な企業といっても現実の所有権は“他人”のもの。カネの出所を明らかにできない以上、根抵当権を担保しておく必要があったのだろう」と推し量る。
ただ、出版会館に入居していた団体について、一部は本部に移転する見通しだが、残る団体は「自分たちで移転先を探すように」とも指示されているとされる。
内部では「老朽化し始めた本部の維持より、各地方の朝鮮学校の改修を何とかすべきだ」といった現実的な声も出ているという。
なけなしの資金をかき集めただけに、今後、組織運営を圧迫する可能性もある。朝鮮総連関係者の一人はこう漏らす。「組織を象徴する拠点を維持するといっても、結局、許議長ら執行部が体面を保ちたかっただけではないか」(産経)
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