■ロイター・コラムでPeter Van Buren氏の見解
[4日 ロイター]過激派組織「イスラム国(IS)」は、支配しているイラク北部の都市ティクリートとモスルを失うことになるだろう。
イラク政府軍と共同戦線を張る、イスラム教シーア派の武装組織、クルド人治安部隊、反ISの立場をとるスンニ派勢力にとって、勝利はたやすいものではない。それでもイランと米軍の支援を後ろ盾に、共闘態勢を組む反IS側が目的を達するだろう。だが、その一歩先には「落とし穴」が潜んでいる。
作戦に関わる当事者はIS打倒という目的を共有しているが、あいにく友人でも同盟国でもない。特にイラク北部の要衝モスルをISから奪還することは、2003年4月のイラク戦争時の状況に再び戻る可能性を意味する。
当時、イラク軍部隊が降伏し米軍にモスルを明け渡した。
その後、戦闘終結が宣言されたが、クルド人勢力とスンニ派が交戦したほか、スンニ派とシーア派が衝突するなど、治安は悪化した。
イラク駐留米軍のペトレアス司令官(当時)は、第101空挺師団の2万1000人を投入し、モスルからクルド人勢力を追い出し、スンニ派との関係も不安定化した。
ペトレアス司令官が去った後、モスルでは勢力争いが再開。イラク全体にも言えることだが、同市の真の支配者は誰かという根本的な問題が未解決のまま残された。ISは昨年、その間隙(かんげき)をついてモスルを支配下に置いた。
フセイン元大統領の出身地であるティクリートの奪還作戦も、スンニ派とシーア派間の争いの副産物と言える。
2003年まではスンニ派が、2014年まではシーア派が、そして現在はスンニ派のISが同市を支配している。モスル奪還計画と違うのは、ティクリートへの攻撃に参加するのが、主にシーア派の武装勢力で、イランのスレイマニ司令官が指揮を執ることだ。
ISからのティクリート奪還に成功すれば、シーア派武装勢力の勢力拡大につながる。イラク政府は、米軍の訓練を受けた政府軍よりも、同勢力への依存を高めることになるだろう。ひいては、イラク政府に対するイランの影響力を強固なものにする。
そして、米国によるISとの戦いは、スンニ派対シーア派というより大きな争いの前段階にすぎなかったということを露呈するのだ。
米中央軍当局者は先月、モスル奪還作戦を4─5月に開始する見通しで、イラク政府軍やクルド人治安部隊など計2万─2万5000人を投入する準備が進められていると明らかにした。しかしカーター米国防長官は、どの部分かは明確にしなかったものの、この説明は不正確だとしている。
モスル奪還作戦に米軍の地上部隊派遣が必要となるのはほぼ間違いない。
そのうえ米国は、近接航空支援に加えて、イラク側の全く異なる多くの要素をまとめる役割を引き受けなければならなくなる。
モスルの戦いでは、以下の2つの問題が浮上する。
市街戦は最も大きな被害をもたらす戦闘行為の1つだが、米軍はモスルを奪還するために、町を壊滅状態に追いこまなければならないのだろうか。
それはシリア北部の町アインアルアラブ(クルド名:コバニ)をISから奪還した戦いを見れば分かる。
米国はコバニへの空爆700回以上を主導。約23万人の住民が避難を余儀なくされた。民間人の犠牲者数は集計すらされておらず、町の再建計画も発表されていない。
モスルでも同様の破壊が予想され、国連の推計では地域全域で約150万人の避難民が発生する見通しだという。
そして、誰がモスルを支配するかという重要な問題が残されている。
対ISということにおいては、イラクのすべての当事者が米国の支援を歓迎するが、奪還後に仲介役を務める米国に対して、スンニ派、シーア派、クルド人勢力がどのような反応を示すかは極めて予測困難だ。
モスル奪還後にスンニ派の警官隊がやって来たときに、命を懸けて作戦に加わったクルド人勢力がそう簡単に引き下がるとは考えにくい。
一方スンニ派も、報復の可能性がある中で苦境に立たされることになる。
さらにシーア派中心のイラク政府は、中央政府の合法性を主張して、モスルの支配権を認めるよう米国に強く求めるだろう。
そして、イランがどのような手に打って出るかは予測不可能だ。
米国はモスルの戦いで、イラク戦争のときと同じ過ちを繰り返そうとしている。
内在する政治的、民族的、宗教的要因にほとんど注意を払わず、軍事行動に専念することで再び勝利から敗北をかみしめることになるのだろう。
*筆者は米国務省に24年間勤務。著書に「Ghosts of Tom Joad: A Story of the #99 Percent」、「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People」がある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(ロイター)
<a href="http://www.kajika.net/">杜父魚文庫</a>
コメント