■かの中華秩序なる、はた迷惑な病理はどこから来ているのか
アメリカ基軸の国際秩序を破壊するのが「習近平の中華帝国」の夢
<石平『なぜ中国は覇権の妄想を止められないのか』(PHP新書)>
『中華秩序』は周辺国に朝貢を求め、従わなければ侵略して従属させるのだが、ときどき相手が強くて、戦争に敗れてシュンとなると、二世紀、三世紀はじっとしている。
その昔、隋は高麗に敗れて、王朝は唐に変わった。この随と唐王朝は漢族ではなく鮮卑系だった。
ベトナムとは十七回戦争をやって、中国は勝ったり負けたり。いまのベトナムは反中国の筆頭である。ロシアとは小競り合いを演じても決して闘わない。戦争になれば負けることが明らかで、この場合、中華秩序の適応外ということになる。
それにしても、この中華秩序なるものを病的にもとめる基本ルールがあるのではないか、だからこそつねに中国は覇権主義に打って出る。また中華思想にがんじがらめに縛られてきた。
いま日本に復讐をちかって戦争をしかけてきたのは、この中華秩序をぶっ壊した日本への恨みを晴らすためだ、と石平氏は言う。「沖縄処分」と「日清戦争」の敗北によって中華秩序は破壊されたからだ。
その恨みを百年溜めてきたことになる。石平氏は独特の史観と解釈で、この中華秩序の病巣に迫った。
そして、そこに「歴史の法則」があることを石平は我流の解釈で発見したのだ。
習近平の中華思想の根源が露呈したのは外交方針で「親、誠、恵、容」の四つに象徴され、いずれもが「上から目線」で周囲を見ているとするあたり、やはり石平氏独特の発見である。
そして近年、中国の帝国主義的膨張主義は「陸から海へ」突出し、狂気の軍拡の殆どが海軍力の充実に向けられた。
堂々と南シナ海の岩礁にセメントを流し込み、軍事施設に滑走路、「ここは昔から中国領、なんか。文句でもあるのか」と開き直り、西太平洋の海の覇権をも追求し始める。
さすがのアメリカも堪忍袋の緒が切れた。
親中派の筆頭だったキッシンジャーすら、最近はこう言っていると石平氏は次の発言に注目している。
「中国は平等な国家からなる世界システムに馴染めず、自国を世界のトップ、唯一の主権国家と考え、外交は交渉よりも世界階層秩序での各国の位置づけを決めるものと考えていると(キッシンジャーは)述べている。そしてもし中国が他国に既存システムが、新秩序かを選択するよう要請すれば、アジアでの新冷戦の条件を作り出しかねない」
ともかく「アヘン戦争から日清戦争までの近代で、『中華秩序』が崩壊してから119年、大日本帝国がその構築を目指した『日本版の中華秩序』が粉砕されてから69年、現代の『習近平の中華帝国』はかつての大日本帝国がアメリカ中心の秩序に敢然と立ち向かったのと同様に、まさにアメリカに挑戦状を突きつけて国際秩序の破壊と、自らを中心とした新秩序の構築を始めようとしている」
それが現代世界の地政学的解釈ということになる。ただし大東亜戦争が「日本版の中華秩序」というくだりは、やや牽強付会であり、わたしたちの認識とはニュアンスが異なる。
本書の推薦を養老孟司氏もしているが、不思議である。養老氏は左翼的であり、ということは左翼ブンカジンでも石平の歴史の法則に納得したということだろうか?
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