安倍政権は戦後70周年に当たる談話を出すのをめぐって、苦慮している。新しい首相談話を発表する8月は、日本にとって重い夏となる。
ワシントンから再三にわたって、村山談話、河野官房長官談話を「継承」し、先の大戦に対する反省を繰り返すように求められている。
安倍首相が5月の連休に訪米して、アメリカ議会で演説することになるが、先の大戦にどのように言及するのか、頭が痛いことだ。
だが、大戦終結後70周年を記念しようという騒ぎが、このように大きく盛りあがっているのは、おかしいではないか?
普通なら、50周年、100周年を記念するもので、70周年が大きな節目となることはない。60周年にこのように大きな話題に、ならなかった。
ロシアと中国には、70周年を盛大に祝いたい計算がある。
ロシアはソ連が崩壊して、共産主義も破綻してしまったので、前大戦でヒトラーのナチス・ドイツを打倒したことしか、正義を主張できない。
中国も同じ弱味を、かかえている。東南アジア諸国などの周辺の国々を恫喝して、評判が悪い。いまの中国は、中華民国ではないから、先の大戦の戦勝国ではないが、軍国日本を屈服させたことしか、正義を騙(かた)ることができない。
しかし、アメリカはどうなっているのか?
アメリカは17世紀初めに、イギリス本国から迫害を受けていた清教徒が、北アメリカ大陸に“地上のユートピア”である「神の国」を築こうと決意して、大西洋を渡って、建国した国である。
そのために、今日でもアメリカは、キリスト教の信仰が篤い国となっている。ヨーロッパでは神父や、牧師のなり手がいないので、アフリカの黒人やインド人の聖職者が増えている。アメリカはヨーロッパ諸国において宗教離れが進んでいるのと、対照的だ。
アメリカはいまでも「世界で自分たちのアメリカがもっとも正しい」と信じている、“地上のユートピア”主義を国是としている。
なぜ、ソ連が東西冷戦が終わるまで、地球上の半分近くを支配したのか。なぜ、アメリカが「アメリカの理想」を振り翳して、全世界をアメリカ化しようとしているのか。
この答えを求めるためには、西洋史を遡らなければならない。
ヨーロッパでは中世を通じて、ローマ法王のキリスト教原理主義によって、一切の知的な自由が圧し潰されていた。
そこに、ルネサンスと啓蒙の時代が、到来した。
啓蒙の時代は人間の知性を、神よりも上に据えた。その結果、それまでは天国が死後の世界に属していたが、天国を地上に引きずりおろして、“地上のユートピア”主義が出現した。
18世紀のフランス革命が、その鬼子であり、マルキシズムが“地上のユートピア”思想の代表的なものだった。
ソ連が消滅して、中国もマルキシズムを捨てて、“偉大な中華文明の復活”を旗印とするようになった。
だが、アメリカがまだ“地上のユートピア”主義国家として、残っている。アメリカも先の大戦で、アメリカが正義であったことを、証したいのだ。
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