■核交渉を憂慮する周辺国
[ベイルート 23日 ロイター]イランの核開発問題をめぐる同国と主要6カ国との協議で、枠組み合意の期限が今月末に迫るなか、アラブ諸国の専門家や指導者は、イランがイラクからレバノン、シリア、イエメンに至る中東地域で支配力を強めようとしていると懸念している。
アラブ地域に新たなイスラム教シーア派の「帝国」を築こうとしていると、一部からみられているイラン。その動きの背後には、ある人物がいる。それは、イラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊を率いるソレイマニ司令官(60)だ。
ソレイマニ司令官はスンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」がイラク北部などで支配地域を拡大して以降、中東の戦闘地域の至るところに現れている。
同司令官は、イラクのフセイン元大統領の出身地ティクリートをISから奪還する作戦を指揮。一方で、シリアのアサド大統領の親戚が殺害された際には同国を弔問。また、レバノンのシーア派組織「ヒズボラ」の故ムグニエ元司令官の息子が今年1月にイスラエル軍の空爆で殺害されると、その墓を訪れた。
<ゲームチェンジャー>
経済制裁の解除をもたらす核協議合意を真剣に検討している可能性がある一方、イランは中東地域全体で影響力を最大限に拡大しようとしている。イラン軍とその同盟関係にある武装勢力はイラクとシリアで対IS掃討作戦の最前線で戦っているため、スンニ派のアラブ諸国の指導者は米国がイランの勢力拡大を止めることはできないとみている。
ケリー米国務長官は先に、核交渉で「大幅な譲歩」はしないとアラブ諸国の指導者に語った。だがその一方で、ソレイマニ司令官がティクリートの作戦に関与していることを認め、サウジのファイサル外相はそれこそ懸念している最たるものだとして、「イランがイラクを乗っ取ろうとしている」と怒りをあらわにした。
故に中東の専門家は、米国とイランの和解がもたらす核合意は、湾岸諸国とエジプトなどのスンニ派同盟国をうろたえさせるものであり、それほど期待できないと指摘する。
アラブ首長国連邦の政治評論家スルタン・カセミ氏は「核合意は中東のゲームチェンジャーとなる。イランはますます積極的な外交政策を取るようになると思う」とし、「ケリー(米国務長官)は否定しているが、これは大幅な譲歩だ。空約束と引き換えに自由裁量権をイランに与えるようなもの。イランをイラクやシリア、レバノンやイエメンで優位に立たせる」と語った。
また、ドバイのシンクタンク「近東・湾岸軍事分析研究所(INEGMA)」のリアド・カフワジ最高経営責任者(CEO)は「全面的な宗派戦争」を警告。「イラクやシリアやイエメンで起きていることは、イランが米国主導の対テロ戦争を隠れみのに、紅海や地中海まで支配地域の拡大を狙っていることを示すものだ」との見方を示した。
<新たな冷戦>
昨年まで駐サウジアラビア英国大使を務め、現在は国際戦略研究所(IISS)に所属するジョン・ジェンキンス氏は、こうした中東地域の懸念を米国が軽視していることは憂慮すべきことだと指摘。
「中東での米国の存在感はかつて見られないほど強いが、アラブ諸国が懸念しているのは、西側が行動を起こすかどうかだ。彼らはレバノンやシリアで米国が何もしなかったことを目の当たりにしてきた。サウジは特にイエメン情勢を気にかけている」と述べた。
オバマ政権はアラブの同盟諸国に対し関係が揺るがないことを強調しようとしているが、専門家は米国政府の最優先事項はイランの核開発とISの勢力拡大を阻止することだと指摘する。
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の中東専門家、ファワズ・ゲルゲス教授は「オバマ(大統領)は、イランとの核合意が自身の外交政策の遺産になると考えている」とし、「核合意はサウジアラビアとその同盟諸国対イランという新たな冷戦を泥沼化させるだろう。アラブ世界の中心で燃え盛る炎にガソリンを注ぐようなものだ」と語った。(ロイター)
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