18676 「鳩山クリミア訪問」露メディアはどう伝えたか    古沢襄

■「日本の元首相」肩書きをプーチン政権に政治利用させた軽薄な「友愛」

「政府として絶対に看過できない」-。3月中旬、3日間の日程でウクライナ南部クリミア半島へ訪れ、現地の要人と面会した鳩山由紀夫元首相の行動は連日、日本政府関係者から大きな非難を浴びた。

弟の邦夫氏は「話にならない。いよいよ宇宙人になった」とも。折しも、ロシアがクリミアを併合してちょうど1年の時期。

プーチン政権の統制下にあるロシアの主要メディアは、G7(主要7カ国)出身の“大物”が現地で併合の正当性や米国批判を繰り返したことを大きく伝え、政治宣伝として活用した。ウクライナ政府は「遺憾だ」と反発し、鳩山氏に対して「キエフに来て何万人もの避難民の話を聞いてほしい」と訴えた。(佐々木正明)

ロシアの主要メディアは今月10日に、鳩山氏がクリミア入りした前後から「日本の元首相の訪問」を大々的に報じた。

国営放送はトップニュース扱いで伝え、祖父一郎氏がソ連と国交を回復した1956年の日ソ共同宣言の主導者で、このことがきっかけで因縁が深まった鳩山家とロシアとの関係をクローズアップさせた。

昨年3月のクリミア併合、同4月から始まるウクライナ東部の内戦を契機に、欧米や日本、オーストラリアなどから経済制裁を受けるロシアでは、こうした国々の有力政治家や有名人が親露的な発言をすると、官製メディアが大きく取り上げる傾向が定着している。経済的な苦境を迎える中で、不満が高まる住民に向けた一種のガス抜き的な側面がある。

ドイツではプーチン大統領とも個人的な親交を深めているシュレーダー元首相。フランス出身で、同国の高額富裕税制に反対してロシアの国籍を取得した俳優ドパルデュー氏。

いずれも、ロシアに厳しい措置を取る独仏政府を批判した。米国人俳優ミッキー・ローク氏は昨年9月、モスクワで人気の「プーチンTシャツ」を着るパフォーマンスをしてみせ、国内外で脚光を浴びた。

しかし、こうした親露派の有名人の中でも、欧米が「国際法違反だ」「ロシアの侵略だ」とするクリミアへの訪問は避けている。露有力紙コメルサントも専門家の話として「近年で、(鳩山氏のような)大物がクリミアを訪れたケースはない」と指摘した。

ロシアの政治、経済界の要人は手放しで鳩山氏の“勇断”を褒めたたえたが、なおも鳩山氏の行動がロシアの主要メディアを席巻したのは、鳩山氏がプーチン政権の主張に沿った発言を行ったからだ。

鳩山氏が実際にどう発言したかは別にして、政権の管制下にある主要メディアの記事やテレビニュースの主見出しを拾えば、ロシアがクリミアをどのように見ており、一方で欧米からの批判にどのようなロジックで反発しているのかがわかる。その例をいくつか取り上げたい。

「日本の元首相、クリミアへ到着し、住民投票の合法性を認める」(ロシア通信)

「日本の鳩山由紀夫元首相は、クリミアの住民投票は住民の意思を反映していると述べた」(外国語ニュースチャンネル ロシア・トゥデイ)

住民投票はロシア編入の是非を問う根拠として昨年3月に実施、賛成多数の結果が出たと発表されたが、実際は、ロシア軍の侵攻下で行われ、ウクライナ政府は認めていない。

鳩山氏は住民投票が民主的に行われ、「領土問題が解決した。最も意義深い出来事の一つ」とまでプーチン政権を擁護してみせた。ウクライナ側が非難するのも無理はない。

以下のような特徴的な見出しも見られた。

「クリミアでは戦車も貧しい人々も見ていない、と語る日本の元首相」(タス通信)

「クリミアの人々は平和で幸せな生活を送っている、と日本の元首相」(露誌論拠と事実)

「クリミアの人々は自分たちの地域がロシアの一部と認識している、と日本の元首相」(国営ニュースチャンネル)

そもそも、鳩山氏がクリミアに入ったのは、現地の暮らしぶりを「自分の目で確かめる」ことだった。こうした報道には、鳩山氏の言葉を通して、クリミアの現状や住民感情を国際的にアピールする狙いが見え隠れする。

それにしても、日本の政界では元所属の民主党も含め、鳩山氏批判の大合唱なのに、ロシアのメディアでは「日本の元首相」の表現が踊り、鳩山氏の言動が日本社会の総意のような誤解を与えている。

さらにこんな報道もあった。

「西側のメディアはクリミアについて一方的な情報しか伝えない、と鳩山元首相」(国営ロシア新聞)

「日本人は、クリミアの出来事について欧米の視点を通してしかみないと鳩山氏」(クリミアの政府系通信社、クリムインフォルム)

「日本の元首相、クリミアの暮らしの真実を同胞に語ることを約束する」(独立テレビ)

ロシアメディアにとって、G7の元首脳経験者の反米発言は格好のネタに違いない。主要メディア以外でも、「米国追従外交」の安倍政権を批判する鳩山氏の発言を取り上げるメディアは多かった。そして、鳩山氏に自分の目で見た「クリミアの真実」を日本国民に語ることを期待しているのである。

鳩山氏はまるで日本政府の代表者のように、クリミアの自治政府幹部らに対して、日本が対露制裁を解除し、クリミアの経済発展のために日本の技術を提供する可能性についても高らかにうたった。

帰国後、インターネット番組で「行ってよかった」と打ち明けた鳩山氏。プーチン政権の政策に反対し、差別を受けているとされる現地のウクライナ人やクリミア・タタール人も併合後の生活を喜んでいると指摘し、鳩山氏の政治信条である「友愛」がクリミアで作り出されているとも説明した。

ウクライナ外務省報道官は、日本の元首相がロシアの占領地域に入ったことを「遺憾だ」と非難した。もし、鳩山氏が友愛を求めるのなら、ウクライナ政府が訴えるように、クリミアの故郷を追われた何万人もの避難民や移住者の話も耳を傾けるべきだろう。(産経)

<a href="http://www.kajika.net/">杜父魚文庫</a>

コメント

タイトルとURLをコピーしました