18697 対ロ追加制裁で狭まる米の選択肢    古沢襄

■欧州では緩和望む声

[ワシントン 23日 ロイター]ロシアのエネルギー産業に対する制裁強化に踏み切りたい米国だが、欧州では自らへの経済的ダメージを懸念して緩和を望む声も出始めており、打つ手が限られてきている。

 
エネルギー産業はロシア経済の生命線で、ウクライナ問題に伴う欧米の対ロ制裁で主な対象となってきた。北極海探査など、制裁を科しやすい計画はすでに対象となっているため、米国はロシアの石油輸出に制限をかけるような、踏み込みたくない選択肢しか残っていない。

 
昨年以降、原油価格が大幅に下落したとはいえ、米国と同盟関係にある欧州諸国はエネルギー供給に悪影響が及ぶことを警戒している。エネルギー分野で欧州のロシア依存度は大きく、ロシアがガス輸出を絞ることで対抗する可能性があるからだ。
 

昨年8月まで米国務省でエネルギー担当の首席外交官だったカルロス・パスキュアル氏は「石油価格を武器にすれば、ロシアはガスで対抗する。欧州にはできない話だ」と語った。
 

一方、現職のアモス・ホッチステン首席外交官(エネルギー問題担当)は、ウクライナ問題を深刻化させる方向にロシアが動くのであれば、追加制裁を講じる手段はあると指摘。ルー米財務長官は先週、停戦合意の条件を破れば、ロシアにさらなる代償を払わせる準備があると述べた。
 

ホッチステン氏はロイターに、ロシアの現在の石油生産を制裁対象にする確率は低いとする一方、その可能性を排除はしなかった。
 

ホッチステン氏は「何が効果があるかを見極める。原油相場が変動したため、現在と1年前の評価は違う」と述べたうえで、「ロシアは市場の参加者であるべきだが、ゲームのルールに従うことが必要だ」と語った。

 
<欧州では制裁緩和望む声も> 

米国が単独で追加制裁に踏み込むことは現実的ではない。なぜなら、米国のエネルギー企業がロシア側との提携解消に追い込まれる一方、欧州勢がその隙間に入り込むことが考えられるからだ。
 

昨年の制裁で、ロシアの北極海の油田開発から米エクソンモービルが撤退し、ロシア国営石油会社ロスネフチとの提携を解消。2011年に結ばれた開発合意の規模は32億ドルに上る。
 

欧州連合(EU)のトゥスク大統領は20日、対ロ制裁をめぐってEU内で一致した立場を維持することがだんだん困難になってきていることを認めた。EUの関係筋が匿名を条件に語ったところによると、域内では半数以上の国が制裁緩和を望んでいるという。
 

これまでの制裁で、油田掘削プロジェクトの最前線で投資や技術移転ができなくなり、ロシアへの資本流入が抑制され、プーチン大統領の側近が資産凍結や渡航禁止措置の対象となった。
 

原油価格の下落も打撃となり、ロシア経済はリセッション(景気後退)入りする可能性もある。こうした状況でも、ロシアは1年前に編入したクリミアへの関与の手を緩めようとはしていない。また、プーチン大統領の支持率は、制裁が科された後に上昇している。
 

欧米がロシアのシェールオイル開発への投資を停止することもできる。ただ、シェール開発を対象に制裁を科しても、ロシア経済にすぐに打撃を与えることはできないかもしれない。ロシアがシェールオイルの本格的な生産にこぎつけるには3─10年かかるためだ。
 
ロシアのエネルギー産業を即座に揺るがすだけの決定的な手立てがない欧米の手詰まり感が浮き彫りになっていると専門家は指摘する。
 

現時点で最も効果のある制裁は、国際的な銀行間決済ネットワーク「国際銀行間通信協会」(SWIFT)からロシアを除外することだ。ロシアの銀行関係者や当局者はこれを、世界の金融を混乱に陥らせる「核」オプションだと表現する。
 

また専門家は、エネルギー関連技術以外にロシアは米欧からそれほど多くを必要とはしていない、とも指摘している。(ロイター)

 
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