18758 米中二股外交、優柔不断の韓国    古沢襄

■高高度ミサイルで「親米」「恐中」世論分裂

在韓米軍基地への配備が検討されている「高高度防衛ミサイル」(THAAD)をめぐり、韓国が揺れている。中国が「自国への脅威になる」と外交圧力を強めているからだ。

左派系が「米国に押し付けられれば、中国依存の経済が立ちゆかない」と主張すれば、保守派は「韓国の主権を侵す中国の肩を持つな」と反論、世論が真っ二つに引き裂かれている。

大国を頼って独立を失った20世紀初頭前後の歴史を引き合いに、不安をあおる論調も登場した。

■「不幸な歴史が再現」

「旧韓末の不幸な歴史が再現されるのではないか、不吉です」。左派系韓国紙のハンギョレ(電子版)は16日、朴槿恵(パク・クネ)大統領(63)への手紙の形で、こう書き出すコラムを掲載した。

コラムがいう「旧韓末」とは、20世紀初頭前後、当時の韓国の権力層が清(現中国)や日本、ロシアに頼ろうとして結局、日韓併合を許した時代を指す。

その上で、駐韓米国大使への襲撃事件以降、負い目から米国寄りになっている世論を危惧。THAAD配備について「韓国が国土の一部を中国封じ込めの前哨基地に差し出すのを中国が座視するはずはない。経済的な利権は、ほとんど中国から得ながら、政治・軍事的には中国に敵対的な立場を取っている」ことになるからだと指摘する。

「とばっちりを受けるのは、国民だ。安全保障上の利益が衝突する2つの国の板挟みになって巻き添えを食っている」とも主張し、「国を売り渡すことは、あってはならない」と配備に慎重になるよう求めた。

■反対論は「恐中症」

代表的な配備反対論は、親北傾向の金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権時代に統一相を務めた丁世鉉(チョン・セヒョン)氏の次のような主張だ。「韓国がTHAADで中国の安保利益を威嚇すれば、中国は韓国の経済利益を威嚇する可能性がある。そうなれば、対中依存度が高い韓国経済は立ち行かなくなる」(2月22日、ハンギョレ)

これに対して、親米傾向の保守派が強調するのは、THAADは核・ミサイル開発を推し進める北朝鮮の攻撃に備えるもので、中国を脅かすものではないという点だ。

保守系紙の東亜日報(電子版、14日)は、コラムで「米国と現政権が憎いからと、中国の肩を持つゆがんだ見方は『韓中パートナーシップ関係』にふさわしくない」と反対派を批判。

「中国の顔色をうかがうだけでなく、自ら隷属する考えだ。朝鮮時代の事大主義に戻ろうということか」と論じ、反対論を「恐中症」と切り捨てる。

左派、保守派ともに、大国に翻弄された歴史を持ち出して、双方を批判しているわけだ。これこそが、一枚岩になれず、大国の介入を招いた歴史の“再現”といわざるを得ない。

■外交的足場の弱さ露呈

訪韓した中国の劉建超外務次官補(51)が16日、記者団を前に「中国の関心と憂慮」を明言すると、保守系論壇は、さらに反発を強めた。

中央日報(電子版)は18日の社説で、中国の態度を「常識に外れる強圧外交」だとした上で、「THAAD問題で韓国が味方になるよう強要し、韓米同盟の根幹を弱体化させようとの思惑が読み取れる」と非難した。

さらには、「中国が北朝鮮の核兵器開発を黙認してきたことに根本的な原因がある。北の核が消えれば、THAAD配備の理由も消える。中国は韓国の安保主権を侵害するのではなく、北朝鮮の非核化のために積極的に動かなければならない」と逆に中国に注文を付けた。

左派、保守派が互いにヒートアップする中、韓国政府は、米国から公式に要請がなく、協議も決定されたこともないとはぐらかし、「戦略的あいまいさ」で批判の矛先をかわそうと苦心している。

東亜日報は、社説(17日)で「米中の間でバランスをとるために受け身に対応し、片方との関係が傷つく『ゼロサムゲーム』になってはならない」とも主張する。一見、正論のようだが、いずれは配備か否かの決断を迫られる。米中双方に「いい顔」はできないのだ。

THAAD配備論争は、中韓の間でうまく立ち回っているつもりでも、韓国が置かれた外交的足場の弱さを図らずも露呈させた。(産経)

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