18809 世界一の商業国家「英国」が開けたパンドラの箱    古沢襄

■日米との不和懸念より中国AIIB選んだ冷徹“損得勘定”

中国主導で創設される「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に、英国が3月12日に欧州主要国で初めて参加を表明したのを機に、ほかの欧州諸国や新興国が相次ぎ参加を表明する流れが止まらない。

その英国が「特別な関係」の同盟国、米国の制止を振り切った背景には、英国の経済優先主義がある。第二次大戦後続く米国優位の金融秩序への挑戦が始まった。(ロンドン 内藤泰朗)

「西側の主要国で、初めて創設メンバーになる決定を下した」-。

英国のオズボーン財務相は3月18日、5月の総選挙を控えた政権最後の下院予算演説の冒頭、こう語り、「欧州主要国で初」に強いこだわりをみせた。「新しい国際機関には創設時から参画すべきだと考えたためだ」と強調した。

ウクライナ危機で欧米諸国から経済制裁を受け、じり貧の道を歩む新興国、ロシアは当面、頼りにならない。欧州経済も不振にあえぐ中、英政府は成長する中国を新たな経済パートナーとする意思を打ち出し、中国の投資銀行への関与を明確にすることで実利を得ようというわけだ。

さらに、英政府は、対中貿易を増やし、ロンドンを欧州における中国通貨の金融取引センターにして膨大な資金を中国から呼び込もうという野望を抱く。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、英外務省は、AIIB参加が日本、米国の同盟国と不和を生み出すと警告したが、同財務相が政府の国家安全保障会議(NSC)で、「起こりうる問題よりも商業的な利益の方が勝る」と説得。

昨年、「英史上最大の貿易代表団」と中国を訪問したキャメロン首相が、同財務相の経済優先外交を後押し、決断した。

英国が突然、投資銀への参加を表明した数日前のことだったという。

英国内には「勃興する中国は分裂する西側諸国をうろたえさせている」「米国の金融秩序と、中国による秩序が競合する事態は、世界にとって悲劇であり、双方ともに失うものが多い」と、中国主導の新秩序を警戒する声がある。

だが、その一方で、「中国が投資銀を自らの政治的影響力拡大の道具に使うというが、米国もこれまで金融秩序を利用してきた」と皮肉る声もある。

ただ、「中国は西側の参加、不参加にかかわらず投資銀行を立ち上げる。世界経済の規模を拡大させる投資銀行を拒絶することはばかげている」「世界経済へのカンフル剤となる」などと、投資銀創設には好意的に捉える向きが多い。

英国が開いた「パンドラの箱」は、ドイツやフランス、イタリアに加え、ルクセンブルクやスイス、オーストラリアといった欧州の金融国家、さらにブラジルやロシアといった新興国が連鎖的に参加を表明する事態に拡大した。

「それが英国の狙いだった。西側初の参加表明をした英国の賭は、当たったのかもしれない」

そう語る外交筋によると、英国の金融産業は1980年代はバブル経済の日本、その後は、中東やロシアのオイルマネーを吸い上げて成長してきた。

同筋は「英国は中国の巨額資金で貪欲に成長を続けることを考えている。中国による金融秩序構築が失敗しても、成功しても、得られる利益は大きい。確固たる対中国戦略がなくても、米国主導の金融秩序が簡単に壊れることはないことも英国は理解している。どこまで中国の資金を活用できるのか、注意深く見ていきたい」と指摘している。(産経)

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