■中国の国有企業には特有の利権構造と伏魔殿があって前に進みにくい
中国の産業再編の動機は李克強首相が全人代で唱えだした「低成長だが独自商品」などを目玉とする「新常態」(ニューノーマル)の一環で、過剰な在庫、つまり国有企業同士の見境のないノルマ達成の果てに万里の長城のように築かれた在庫の山を処理するには企業の効率的な合併、分社などによる再編しかないというのが次の目標である。
これを共産党の指導によって強行することになる。
最初に鉄道車両メーカーの南社と北社、すなわち鉄道車両を製造する二大メーカーの合併だった。両社で中国の車両需要の80%をまかない、地下鉄車両の殆ど、そのうえ28ヶ国に輸出している。
新興国を中心に中国の高速鉄道プロジェクトの話も進んでいる。南北車両の合併により、中国は車両生産でカナダのボンバルディア、独シーメンス、仏アルソトムより規模が大きくなった。
このあとに続くのは石油、通信、金融、食料などの産業分野だが、企業の方も先手を打って生き残りをかける。
とくに国有企業にはそれぞれの沿革から利権構造がビルトインされ経営幹部は共産党から派遣される伏魔殿、かれらは改革なんぞには背を向ける。
目立っての業績不良は自動車の国内メーカーである。
BYD、吉利、長城などは中国市場でも消費者は外国車志向が強いため想定したほど売れず、販売代理店は閑古鳥が鳴いている。
これらBYD、吉利、長城の三社は軒並み減益となった。2014年度の国内販売は40%を割り込み、各社は減産体制を敷いた。
▼中国の国産自動車は誰が買っているんだろう?
他方、外国メーカーとの合弁である第一汽車、上海汽車、東風汽車、北京汽車、広州汽車などいずれも中国国内市場での売れ行きを伸ばし、好対照を見せた(中国語では「汽車」は自動車を意味し、「火車」が日本語の汽車)
もともとが電池メーカーだった比亜柚は「BYD」ブランドの廉価車をだした。電池メーカーが得意の分野だから初の電気自動車と騒がれ、一時は米国の投資家ウォーレン・バフェットが工場見学に訪れ、投資銘柄に撰んだほどだった。
ところが、電気自動車そのものが世界的に売れておらず、そのあおりを食ったかたちとなった。GREEDYブランドの国産車を創る吉利もボルボを傘下にしているので、こちらの売れ行きはよくとも、自社ブランドはさっぱり。
大手自動車メーカーとて上海汽車はVWと組むほか、GMとも組んでそれぞれの合弁メーカーとしてVWとGMを販売し良好だが、自社ブランドの「栄威」はやっぱり売れない。たしかに価格は安いが故障ばかりで、アフターケアは悪く、外国車と比べても見劣りがする。中産階級以上はどうしてもトヨタやBMWをほしがる。
李克強首相のかけ声、「中国独自の製品をつくる」というものは共産党指導部の「新常態」だが、やっぱりアブノーマルである。
石油大手もそろって苦境に陥っており、再編の余地がある。
周永康は石油派のボスだったが、彼の側近等の利権漁りと、腐敗、同時に強気の海外投資を展開していた最中、原油価格の暴落が始まって二重苦がでる。
くわえて環境対策への費用が重荷となって国有大手が大幅な減益を示した。しかし真因は反腐敗で経営幹部がぞろり、刑務所へはいっため、経営トップ不在で方針が決まらないからだった。
中国の三大メジャーとは中国石油天然気集団(ペトロチャイナ)、中国石油化工(シノペック)、そして中国海洋石油(CNOOC)の三社で、いずれのその企業規模は欧米メジャーに肉薄する。
欧米メジャーは嘗て「セブン・シスターズ」(七人の姉妹)と言われた、いまは五社に再編され、英蘭ロイヤルダッチ・シェル、エクソン・モービル、英国BP、米シェブロン、仏トタル。いずれも合併、合併を繰り返してきた。
しかし中国メジャーの決算報告をみると、原油価格下落により国内販売価格の値下げをおこなうこと十数回、ガソリンスタンドは在庫をへらすためのダンピング販売も行われたうえ、じつは海外に確保した鉱区の開発などが遅れたり、中途半端、なかには工事中断という無駄な投資となって「資産減損損失」として静かに計上されているのである。
2014年度にペトロチャイナは55億元(1100億円)、シノペックが68億元(1360億円)。しかし「資産減損損失」がこんな少ない金額ではなく、おそらく、この数十倍規模の損金が生じていると専門筋は見ている。
このため三大中国メジャーも2015年は開発投資を8-9%減らさざるをえなくなったのである。
▼通信大手も再編される可能性がある。
産業再編の予兆を感じて被買収対象とならないように競争も激化の一途をたどり、通信メーカーとりわけ中国の携帯電話大手三社は、4Gへの投資合戦に乗り出した。
トップの中国移動(チャイナモバイル)は八億人以上の契約者を誇り、二位の中国電信は二億人弱、三位の中国連通信が三億人の契約(順位は売り上げによるため、二位は中国電信となる)。
この三社が4Gの契約販売合戦を中国全土、それこそ山奥から砂漠の果てにまで繰り広げている。
各々の出費はアンテナ基地の構築である。2015年中に100万ケ所以上に拡大し、投じるカネは1兆4000億円弱という破天荒なプロジェクト。過当競争はやがてダンピング競争になり、各社赤字転落のあと、待ち受けるのは強い方が弱い方を飲み込む企業合併だろう。
本業以外にも異業種に進出して業績を上げようとするのは企業の宿命である。
中国化工は、数社を合併してできた大手国有企業で、従業員は14万名、プラスチック製品が本業だが、タイや生産にも打って出る。このためイタリア大手ピレリを買収する。
ピレリは独コンチネンタル、仏ミシェランに比べて競争に立ち後れたため、ロシア進出で市場に風穴をあける企業戦略を展開してきたが、欧米がプーチンのロシア制裁にでたため、ピレリの戦略が裏目に出た。中国化工は9200億円という途方もない金額を提示し、トラック、乗用車タイや製造企業を参加に入れる。
こうして中国の海外へのM&Aによる進出は拡大の一途で、2014年だけでも708億ドル弱が流れ出た。
レノボはモトローラのスマホ端末部本を30億ドル弱で買収し、光明食品はイスラエルのツヌバフーズを25億ドルで買収した(念のため同年の海外企業の中国直接投資は1380億ドルだった)。
過剰在庫、過当競争、企業合併、縮小、分社化という再編の嵐はこれから中国でも本格化してゆく。
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